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『ワイルド・アット・ハート』 1990年カンヌパルムドール受賞。リンチワールドの極致。

評価 ☆☆☆



あらすじ
アメリカ南部のある田舎町。ロックンロールが大好きな男、セイラーはルーラとつきあっている。しかし、ルーラの母であるマリエッタはセイラーに対しては殺意を抱いていた。マリエッタはセイラーに殺し屋を差し向ける。セイラーは返り討ちにするが服役することになる。



カンヌ映画祭はアカデミー賞に比べていろんな意味で興味深い。映画祭のコンペティションは本当に複雑怪奇であるが、カンヌ映画祭のグランプリにあたるパルムドールの中には本当に「どうして?」という作品も少なくない。まぁ、それをいうとアカデミー賞だっていろんな意味で「why?」というものが多い。



中には「よくパルムドールをこの作品に受賞させたなぁ」と拍手を送りたくなるものもある。ロバート・アルトマンの『マッシュ』とかもそうだろうね。アルトマンの才能が開花する前だったと記憶している。パルムドールではないが『オールド・ボーイ』もそんな感じ。つまり青田刈りに近いというか、新しい才能に対してカンヌ映画祭は寛容であり、敏感なのだ。



『ワイルド・アット・ハート』も本当に良く受賞させたと心から思う。1990年公開のこの映画の監督はデヴィット・リンチ。出演がニコラス・ケイジ、ローラ・ダーンなど。この作品ほど、過剰で、幼稚で、破綻している作品は類を見ない。下手したら実験映画である。それがパルムドールとは!




『ワイルド・アット・ハート』は、オズの魔法使いをモチーフに、さまざまな映像が過激に混ぜ込まれている話でもある。プレスリーのナンバー、降臨する天使、ヒステリーで口紅を顔じゅうにぬりたくる母親、蛇皮のジャケット、などなど。すごいです。



デヴィット・リンチらしいと言えばらしいんだけど。ラストなんて背筋が寒くなっちゃうと同時に苦笑。笑ってしまいますよ。すごすぎる。



ストーリーの骨格は『俺たちに明日はない』のようなロード・ムービーに『オズの魔法使い』と融合させたようなもの。どこかのサイトで書いてあったけれど「この映画にはリンチ独特の夢のシーンがない。代わりに超現実的な部分が現実に溶け込んでいる」。確かにそのとおりで、彼の夢の世界を全部現実に置き換えたのが『ワイルド・アット・ハート』である。



そのせいか、膨らみのある作品になっている。破綻したストーリーは強引とも言えるラストに持っていき、しかも納得させられる。やはり才能がなくては絶対にできない技だろう。



いつも思うのだが、リンチほど醒めた視点で狂った映画を作る人も珍しい。この映画の持つスピーディさとドライブ感は魅力的だ。こんなテイストの小説ってあるんでしょうか。村上龍が書きそうだけど。ちょっと違うかな。



ニコラス・ケイジも、ローラ・ダーンも、イザベラ・ロッセリーニも、ウィレム・デフォーも、すげえ、です。やっちゃいけないような演技をバンバンやってる。



多分、この先、リンチ自身こんな映画を撮ることはできないだろう。ある意味、奇跡のような映画である。



追記



僕の予想を外れて、デヴィット・リンチは『インランド・エンパイア』『マルホランド・ドライブ』などの新境地を展開。でも、個人的にはこの頃のリンチが一番良いように思える。



初出 「西参道シネマブログ」 2006-06-08



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