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『君よ憤怒の河を渉れ』 中国で大人気。滅茶苦茶な設定で、滅茶苦茶なラストだけど「面白い」。

評価 ☆☆



あらすじ
新宿の雑踏にいた東京地検検事である杜丘は、突然、見知らぬ女性から「私を強姦して、現金とダイヤを盗んだ犯人よ」と大声で叫ばれる。緊急逮捕された杜丘だったが、取り調べの中で、さらに別の男から「カメラを盗んだのはこの男だ」と窃盗の容疑をかけられる。



いろんな映画を観てきたし、いろんな小説を読んできた。自分が面白いと感じる作品の多くはこぢんまりとした話が多い。世界を救う話とか、壮大なスケールの物語とかも悪くないが、そんなものを観ていると次第に醒めてくる。なんていうか、異星人との戦いもいいけど、今日の晩ごはんのおかずの方が気になる。年かな?



最近になって「現実にある出来事を物語にしてもわりとつまらなくなる」ことを学んだ。観客は読者は現実に飽きている。逆に、ありえないことばかりを重ねていくと物語はどうなるのか? 多分、突っ込み満載のハリウッド的馬鹿映画になるだろう、と考えていた。



ところが、偶然観た『君よ憤怒の河を渉れ』では、その考えすら極めて浅はかだということを知らされた。1976年公開の映画で、監督は佐藤純彌。出演は高倉健、原田芳雄など。『君よ憤怒の河を渉れ』は『きみよ、ふんどのかわをわたれ』と読む。憤怒は「ふんぬ」とも読むが、ここでは「ふんど」と読むらしい。映画この作品はありえないことの連続である。面白い展開だからストーリーは紹介しないが、突っ込みどころは非常に多い。中盤から大笑いである。



だが、馬鹿にできない。むしろ目が離せない。滅茶苦茶な設定で、滅茶苦茶な展開で、滅茶苦茶なラストだけど「面白い」のだ。



主演の高倉健は「検事にしておくには惜しい男だ」という台詞が劇中であるが、その通りのスーパー検事。なんでもできちゃう。本当になんでもできちゃうのだ。原田芳雄、池部良、中野良子、大滝秀治らは真剣そのものの演技だ。役者はどういう気持ちで演じているのか? 馬鹿にしてないのか、馬鹿にしながらも真剣にやっているのか、よくわからない。中野良子のヌードは完全な吹き替え(笑)。脱いでいない(身体のラインですぐわかる)。



ハードボイルドな内容に軽快な曲の組み合わせも笑える。『第三の男』のチタのテーマを狙っているらしいが見事に外れている。唸り声のようなスキャットのオープニングからしてよくわからない。変な映画である。



監督は佐藤純彌。『新幹線大爆破』『野性の証明』『北京原人 Who are you?』などを撮っている。こう観るとフィルモグラフィも妙だ。



荒唐無稽な話であっても、ありえないことが連続しても、観客は寛容である(私だけではないはずだ)。要はポイントをしっかり抑えておけばいいということか。リアリティのコアさえあれば、物語はどこまでも物語だからフィクションとして成立してしまうということか。もちろん、ある程度の整合性は必要なんだろうが。



そういえばラストに映画の『君よ憤怒の河を渉れ』というタイトルが出てくる。これって観客に向かって「お願いだから怒らないでね」と言っているのか。えーっ? だとしたら笑える。でもさ。荒唐無稽なことも真剣にやるとこんな快作が生まれるらしい。怪作だが本当に「面白い」ので観てほしい。



初出 「西参道シネマブログ」 2014-10-13



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