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『クロッシング』 「善人なおもて往生を遂ぐ、況や悪人をや」の世界。

評価 ☆☆



あらすじ
もうすぐ定年退職だというニューヨーク警察署の警官エディは、退職まで1週間になって新人の教育係に任命される。市民の生活を守ろうとする意欲に満ちた青年とエディとは仲違いして教育係を外れることになる。一方、エディの同僚であるサルは危険な麻薬捜査を行っていた。



2009年公開の『クロッシング』はリチャード・ギア、イーサン・ホーク、ドン・チードルなどの有名な俳優たちが登場。ひとりは退職目前の警官、ひとりは裏で悪いことに手をつけている刑事、そしてひとりは潜入捜査を行っている刑事である。三人三様の人生の一部を切り取りながら物語は進行する。




監督はアントワン・フークア。『トレーニング・デイ』は非常に面白かった。この映画にも『トレーニング・デイ』での新米刑事だったイーサン・ホーク役のその後、という感じの人物が登場する。『トレーニング・デイ』のけがれなき刑事の末路って感じである。



脚本は比較的リアルで、観客たちは三人の人生いずれかの生き方に興味を惹かれるように作られている。ただし、あくまで惹かれるという程度のもので共感までいかない。



ハードボイルドタッチで全体的に好感はもてるが、いくつかの致命的な欠点がある。ひとつは物語の構成。観客が見たいものではない。ネタバレに近くなるけど、リアルなオチではない。



矛盾があるわけではなく、宗教的な意味合いが強すぎ。要はこの映画はキリスト教的救済の話である。仏教的にいえば「善人なおもて往生を遂ぐ、況や悪人をや」の世界である。わかりにくい。



もうひとつはキャスティング。リチャード・ギア、ドン・チードルはどう考えてもミスキャストである。リチャード・ギアは落ちぶれた感じが全然しない。不思議な役者だ。どこか幸せそう。ある意味、イケメン役者というのは不幸かもしれない。いつも同じ印象を受ける。



ドン・チードルもつらい。悪人になり切れていない危うさが全然ない。これじゃ、本当の悪人である。映画は小説に比べてキャスティングによって登場人物の性格が決定されてしまうように思える。そこが、この映画が成功しているとは思えない要因である。



いい監督なんだろうな。でも、最近作を見ているとなかなか良い作品を作られていない。彼の力量がこれまでなのか、それとも何か別の要因があるのか、よくわかりません。ちなみにこの邦題も微妙である。



初出 「西参道シネマブログ」 2011-08-30



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