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『鉄と鉛 STEEL&LEAD』 いまの観客は気分を求めていない。整合性を求めている。

評価 ☆☆



あらすじ
腕利きの探偵は元刑事。どの探偵社でも見つけることができなかった人探しの案件を解決する。ところが依頼者である女は見つけだした男を殺害。殺された男は浜健組組長の息子だった。



タイムリミット、美しい少女、けんかばかりしているが仲の良い相棒、頑固なまでに自分のこだわりを貫き通す男、この映画にはハードボイルドの典型的な要素が数多く盛り込まれている。



それが1997年公開の『鉄と鉛 STEEL&LEAD』。出演は渡瀬恒彦、成瀬正孝、酒井彩名、大泉成、佐藤蛾次郎、竹中直人などだ。監督・脚本はきうちかずひろ。マンガ『BE‐BOP‐HIGHSCHOOL』の原作者として知られている。最近では『藁の楯』の原作者としても有名。正直、映画監督としては大丈夫なの? と思っていた。



きうちかずひろ監督の手腕はなかなかのものだ。前半は本当に面白い。ある事件をきっかけにまるでドミノ倒しのように伏線が次々と展開する。主人公たちの動きにも無理がない。それでいてハードボイルドな要素がちりばめられている。このままラストまで行けば日本映画の代表作になるのでは? と思っていた。



ところが、後半になると次第に疑問符が湧くシーンが増える。映画だから、町中で銃撃戦をしても、けがを負ったままで走りぬけても、交通事故を起こして無傷でもいい。ただし、それなりの理由、整合性があるかどうかが問題だ。



その意味では、この作品は2000年前後の感覚つまり「まぁ、映画なんだからいいじゃないか」のレベルにとどまっている。別の言い方をすれば「リアル」をどう捉えるか、どう製作者側が観客に提供するかという問題でもある。過去の映画的リアルと現在の映画的リアルとは違う。



この作品の欠点は「なぜ」が描かれていないところだろう。「なぜ、こんなにもこだわる?」→ハードボイルドだから、「なぜ、こんなに派手に人を殺しても捕まらない?」→ハードボイルドだから、という図式だ。ほとんどの疑問をこの図式に入れようとしている。なるほど。だが、すべてを気分で語るアプローチは古い。



『鉄と鉛 STEEL & LEAD』は、俳優たちのアクションと演技に大いに助けられている。ちょっとオーバーアクションだが渋すぎる演技を見せてくれる渡瀬恒彦。さすがです。佐藤蛾次郎もすごい。「意外と面白い」という評判通りの映画だった。早く観ておくべきだった。



それにしても、探偵という設定は本当に使い古されているね。いろいろと勉強させられる作品でもありました。



初出 「西参道シネマブログ」 2013-9-23



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