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『長州ファイブ』 山尾庸三にスポットを当て、新しいアプローチで迫る幕末モノ。理系学生にオススメ。

評価 ☆☆



あらすじ
ペリーが率いた黒船の来航から、次第に尊皇攘夷の気運が勢いを増していた。そんな幕末の日本で最も攘夷の風が吹いていたのは長州藩だった。ところがその裏で、西欧に人材を派遣し学問や技術を習得することが必要と説く佐久間象山の言葉に深く心を動かされた長州の若者5人がいた。



自分が山口県出身ということもあって、かねてから興味のあった『長州ファイブ』を観る。長州ファイブとは、山尾庸三、井上聞多、遠藤謹助、伊藤俊輔、野村弥吉の5人のこと。攘夷論の渦巻く江戸末期、長州藩からイギリスへ密航も同然で向かい、西洋技術を学んで日本に持ち帰ろうとした男たちだ。 長州五傑ともいわれている。



映画は2007年に公開。監督は五十嵐匠。出演は松田龍平、山下徹大など。幕末ものは殺し殺される国内の動乱を描くことが多い。さらに、いつも坂本龍馬が登場することもしばしば。別に坂本龍馬は嫌いではないが正直英雄扱いされすぎでうんざりしている。ところが『長州ファイブ』には血なまぐさい戦いはない。



イギリスの技術を輸入するという、理系的な観点から幕末を読み解こうとしている。当時世界一といわれたイギリスの技術力のすごさに驚き、これらをいかに導入すればよいかに悩む若者たちの姿が中心。しかも、進歩的な科学力を持っていたイギリス社会は本当に人間を幸福にしているのか、という疑問提起までしている。



山尾庸三は帰国後、明治時代における工業の父として活躍するが政治的な英雄としては見なされていない。山尾庸三という、幕末にあっては比較的マイナーな人物を主人公にしているところもいい。山尾を演じるのは松田龍平。ストイックな演技が良い。彼の父親である松田優作は山口県出身である。自分の息子がこんな映画に出演するとは思いもしなかっただろう。



伊藤俊輔は後の伊藤博文で日本初の内閣総理大臣としても知られる。昔から女遊びが好きでもあったし、小者という印象が強かったそうだ。三浦アキフミが演じる伊藤博文も大物に見えないところがとてもいい。



音楽は『黒い下着の女 雷魚』や『汚れた女(マリア)』の安川午朗が担当。今回は彼の作品という感じがしない。art of noiseの「Robinson Crusoe」に似た曲が流れる。往年の人気FM番組「ジェットストリーム」のエンディングを思い出す。



監督は五十嵐匠。『地雷を踏んだらサヨウナラ』などが有名。手堅い演出を見せてているが彼もまた山口にゆかりがある。『長州ファイブ』の前にも『みすゞ』を監督していた。こっちの作品は、詩人、金子みすずの半生を描いたもの。



あ、忘れていた。この映画には日本語字幕が出てくる。長州弁が聞き取れない人向けではない。後半になってその理由はわかるが、こういうのも好感が持てた。まぁ、登場人物たちの長州弁は努力しているのがよくわかるけれど、あんまりうまくない。イントネーションが違うんだよな。



山口出身であれば必ず観なくてはいけない作品。さらに、もし、あなたが自分を日本人であると思っているのなら、ぜひ観るべきである。長州藩という小さな枠を超え、先人たちがどれだけの苦労で日本という国を作ったかを知ることができる。



若者5人は命がけで渡航し、技術を学び、少しでも日本の社会を良くしようと我が身を捨てる思いで毎日を過ごした。いま、その幸せを享受している我々は、彼らのように未来の子孫のために努力してるのだろうか。この作品の持つシンプルで力強い主張には思わず胸が熱くなる。



特に若い人たちにぜひ観て欲しい。大丈夫。エンターテイメント性にも優れていて面白いから。



初出 「西参道シネマブログ」 2014-03-17



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