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『インサイダー』 タイトルは内部関係者という意味。ムラ社会の中で公平さを保つことの難しさ。

評価 ☆☆



あらすじ
ローウェル・バーグマンは、CBS放送の報道番組“60ミニッツ”のプロデューサー。司会者はマイク・ウォレス。彼はベテランのジャーナリストだった。この番組は硬派な社会派として知られていた。ある日、ローウェルの自宅に匿名でタバコ会社、フィリップ・モリス社の内部資料らしいもの届いた。




かつて好きだった映画監督たちも、いつしか変容したり、逝去したり、作品を発表しなくなったりする。年を取ったことを実感する今日この頃である。このところ面白いと思う作品がなかった。



マイケル・マン監督は僕の数少ないお気に入り監督のひとりである。彼の冷めた映像は麻薬的である。『刑事グラハム/凍りついた欲望』は、ハンニバル・レクター博士をスクリーンに初めて登場させた作品として知られているが、その映像は十分冷えていた。『ヒート』はいま観てもぞくぞくするような映像感覚に溢れている。特に銃撃戦が印象的だった。『マイアミ・バイス』はあんまり面白くなかった。



1999年公開されたのが『インサイダー』。監督はもちろんマイケル・マン。出演はアル・パチーノ、ラッセル・クロウなど。興味深かった。だが、不満な点もある。ひとつはラッセル・クロウ。完全なミスキャストだろう。これは誰が観ても明白。タバコ会社の副社長で科学者にどう転んでも見えない。



もうひとつは原題をそのまま邦題にしたタイトル。日本でインサイダーというと「インサイダー取引」を連想してしまう。僕はこの映画を株取引の映画と勘違いしていた。そう思っている人も多いんじゃないかな。



insiderには「内部告発者」という意味がある。最近、カタカナ表記にすればいいという映画の題名も多い。日本公開名はその映画の宣伝部が勝手に考えちゃうのだが、もうちょっと丁寧に表現してくれてもよい。カタカナ表記にすれば客が入る時代は終わっているのだから。



欠点があっても良い映画だ。映像はクールだし、内容はリアルで生々しい。正直、途中から「これって何かのドキュメンタリーを参考にしたのかな」と思ったくらい(多分、そうなのだろう)。タバコ会社の訴訟に絡むくだりは素晴らしい。『ニューオリンズ・トライアル』のように裁判だけの面白さに持っていくのではなくて、ジャーナリズムとは何か? メディアとは何か? という問題につながっている。



『インサイダー』は『大統領の陰謀』『ネットワーク』あるいは『ペリカン文書』『プリンス・オブ・シティ』『エリン・ブロコビッチ』などに匹敵する社会派的な作品だ。マスコミ志望のひとであれば観ておいて欲しい。マスコミ志望だけではない。学生やこれから社会人になるひとは、世界における自分の置かれている場所がいかに狭く、その中で最大限の正義や公平さを保つことがいかに大変で重要かを学習できる。



資本主義社会は時として悪意や強欲が善とされることがあるが、それを監視し、エクスキューズを示すのは人間の持つ「良識」でしかないこともわかる。



恋愛モノでもないし、エンターティメントとしての出来はよくないかもしれないが、見る価値は十分にある。こういう映画を日本でももっと作って欲しいものだ。



初出 「西参道シネマブログ」 2012-02-02



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