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『がんばれ!ベアーズ』  ビゼー作曲「カルメン」がコミカルに使われている。アンチ・アメリカンドリームの傑作。

評価 ☆☆☆



あらすじ
カリフォルニアの田舎町で、中年男性バターメーカーは、マイナーリーグ選手だったが今は引退してプール掃除人をしていた。そこに少年野球チーム「ベアーズ」の監督になってくれという依頼が来る。ベアーズは野球が下手な上にチームワークが皆無だった。



『がんばれ!ベアーズ』がリメイクされたという。この話を聞いて再びオリジナルを観た。



この映画は1976年制作。マイケル・リッチー監督作品で、出演は、ウォルター・マッソー、テイタム・オニール、ヴィック・モローなど。マイケル・リッチー監督は『候補者ビル・マッケイ』などでも知られているけれど、もともとコメディを得意とした監督。それでもこの映画は彼の最大のヒットであり、代表作となった。



僕がこの映画を好きだったのは「落ちこぼれたちでも、がんばってアメリカンドリームを成し遂げる」というメッセージがあったと記憶していたからだ。まるで『飛べないアヒル』(クィーンとアイスホッケーのコラボ!)、みたいだ。いや、もう少しメジャーなところでいえば『ロッキー』、『ベストキッド』なんかもそうかもしれない。



ところが、久々に観て驚いた。この映画はアメリカンドリームなんかじゃないですね。アンチ・アメリカンドリームといってもいい。とても現実的なお話だった。



ウォルター・マッソー演じるダメ監督は、自分からではなく、子供たちから勝つことの大切さを教えられ、次第に勝つためにだんだんと努力をするという展開が前半。ところが、勝つことだけを目標となった監督に、今度は子供たちが反発していくところが面白い。



テイタム・オニールがすごく生意気そうな女の子を演じている。生意気なんだけど投げる球がめちゃくちゃ速いという。そういう人間はそうである。



ビゼー作曲の「カルメン」のメロディーも合っている。この曲がここまでコミカルになるとは思ってもみなかった。もともと情熱的なラテンなクラシックなのだが、なんとも笑いが出てしまうくらい面白い。



努力して、努力して、なりふり構わずやってきて、でも、映画を観終わると「これってどうなの?」って思ってしまう部分がある。いや、現実なんてそんなものなのだ。その感覚をしっかり夢物語ではなく見せてくれつつ、やっぱり面白いのが『がんばれ!ベアーズ』の素晴らしいところだ。



考えてみると、いまの日本って勝ち組とか負け組とか、浅いレベルの考え方ばかりが横行している。お金は大切なんだけど、そんなレベルで物事を語ること自体が幼稚である。



昔の映画は違っていた。いろんな価値観をいろんな映画が見せてくれた。いまは、似たりよったりの映画、ドラマばっかりである。



アメリカン・ニューシネマ、ヌーヴェルバーグにはアンチアメリカンドリーム的な雰囲気が強く漂っているのがいい。



結局、勝者なら何をやってもいいのか? ということに尽きる。勝者になることにどんな意味があるのか? この映画は、もっと大切なものが世の中にはあるんだという強いメッセージ性を持っている。その意味ではアメリカン・ニューシネマの隠れた傑作と言っていいかもしれない。



追記



この『がんばれ! ベアーズ』は大ヒットしたために続編が2本作られている。第2作は、1977年公開の『がんばれ!ベアーズ 特訓中』。ウィリアム・ディヴェインが主演している。彼のイメージはこの映画が強くて、後で『マラソンマン』を観た時、急にバットとボール持ち出して、吠えるんじゃないかと思ってしまった困ったのを覚えている。



第3作は、1978年公開の『がんばれ!ベアーズ大旋風 -日本遠征-』。こっちは未見だが、日本が舞台で、若山富三郎、アントニオ猪木、萩本欽一などが出演しているらしい。予告編を観たけれど、ひどそうです。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-10-27



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