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『野性の証明』 薬師丸ひろ子のデビュー作。これは夢オチなのでは?

評価 ☆☆



あらすじ
テロを鎮圧などを目的に自衛隊に極秘裏に作られた特殊工作隊。味沢はその中で優秀な隊員として過酷な訓練を受け、実戦経験もあった。ある時、東北の山中での単独踏破訓練中だった味沢は、民間人との接触を禁止されているにも関わらず、極限の疲労で行き倒れになり、偶然通りがかった若い女性と出会う。




映画は不思議なものだとつくづく思うことがある。理路整然とストーリーに破綻がない映画が面白いかというとそうでもない。かといってストーリーに破綻があるから面白いというわけでもない。物語の端々はわけがわからなくなっも、場合によってはカットがつながらなくても、映画としては何か伝わってくるものがある。



1978年に公開された『野性の証明』は佐藤純弥監督の作品。出演は高倉健、薬師丸ひろ子など。佐藤監督の『新幹線大爆破』は理路整然としていて、よくできている。ところが『野性の証明』は妙な映画だった。



序盤は日本の特殊工作員たちの話、中盤は地方都市の権力争いとサスペンス、終盤は再び特殊工作員と組織を脱退した男の話になっている。ストーリーはまるで木に竹を接いだようにいびつだ。さらに、このストーリーを縦線に、薬師丸ひろ子の連続殺人の被害者の娘と高倉健が演じる義理の父親という関係、中野良子の新聞記者と高倉健との関係が絡んでいる。



根底に流れるテーマというか共通性は「組織に圧殺される個人」ということになるのかもしれない。



さらに、佐藤監督はこの映画をアイドル映画として作るという無謀なアプローチ(多分、角川春樹の要望なのだろう)をしているため、極めて妙な映画になった。だが、どんなニーズにも応えるのがプロなのだろうか。佐藤監督はこれらの無理難題に挑戦している。



正直に言えば、この映画は中野良子が消えてしまった時点でストーリーとしては終わり、後は薬師丸ひろ子と高倉健のラブロマンス。まるで『レオン』を予感させるようでもある。



映画を見終わって、心に残るのは親子愛とか、日本映画離れした映像とか、そういうものではない。大野雄二の美しい音楽。特にエンディングに流れる「頼子のテーマ」こそが、この映画を大きく象徴している。



薬師丸ひろ子が大器だったのかどうかはわからないし、高倉健が本当に演技者としてどうなのかもよくわからない。物語として破綻しているし、意味のない殺戮シーンや残虐シーンが多い。話に救いはない。でも、どこか我々の心の隅をつつく。



映画とは不思議なものである。



追記



原作を読み、再び映画を観て分析してみて腑に落ちた結論がある。この映画の後半は、味沢の幻想(あるいは夢)で観客が夢と思っている頼子の海岸での戯れのほうが現実ではないのか? そう読むと全体がしっくりくる。論拠となる映像はいっぱいある。例えばNGシーンと思えたタイトルバックのさまざまな映像の断片もこれで説明できる。その分岐点となるのが味沢が逮捕されたところだ。



映画の後半は「野性の証明」をすることに憧れた、ある自衛隊員の夢だったのかもしれない。つまり夢オチなのだ。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-05-05



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