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『危険な情事』 怖いですねぇ、一夜限りの浮気は。良質なスタイリッシュサスペンス。

評価 ☆☆☆



あらすじ
弁護士であるダンは出版社パーティで中年女性のアレックスと会う。翌日、妻と子供は実家へ。ダンは出版社の会議で再びアレックスと会い、夕食を共にする。話をするうち意気投合したふたりは、そのまま肉体関係を結んでしまう。



エイドリアン・ライン監督と言えばこの『危険な情事』が代表作。1987年公開。出演はマイケル・ダグラス、グレン・クローズなど。「何と言っても、彼がアカデミー賞の候補作に上がるくらいだからね」とどこかの評論家が書いていたけれど、当時、エイドリアン・ラインは映画評論家から評価が高くなかった。いまも、そうだが。



ひとつはそのテーマ。彼が題材にしている多くは男と女の関係でそれ以上でもそれ以下でもない。エロテックな表現、スタイリッシュな映像は、公開当初は人気を博しても、消費され、消えてしまう運命だろうことを、批評家たちは体験的に知っている。だから、エロティックな表現の多いこの監督に嫌悪感を覚えるらしい。



しかし、僕は彼の扱っている即物的とも言えるまでの、男女のあり方を好意的に見ている。特に『危険な情事』が描いている男女の一夜の関係は、本当に普通にあることのように(事実は知らないけれど)描かれている。



実際、そうなんだろうな、とも思う。この一夜の出来事をどう解釈するかによって誤解が生じて女性の殺意に変わる。『運命の女』も、『ナインハーフ』も、この映画と同様なスタンスである。遊びのつもりが……ってやつである。



20年以上前に製作されているにも関わらず、今でもあるリアリティを保ち続けている。もちろん、ラスト近くのグレン・クローズの演技は鬼気迫るものがあるし、アン・アーチャーの健気な妻の演技との対比も素晴らしい。それらをはるかに超えて、この映画が非常にリアルに感じることができるのは現実的だからだ。背景にはストーカー被害が増大している社会環境の変化もある。



サスペンスとしても良くできている。、エイドリアン・ラインの演出なのか、それともカメラマンのルックのせいか、スタイリッシュな映像に仕上がっている。特にラスト近くのモンタージュは『サイコ』のジャネット・リー殺害シーンを彷彿とさせる。ワンカットワンカットがまさに生きている。この映画は後世残っていくだろうな、とも思う。



かつて僕は「エイドリアン・ラインはどこへ行く? 」という評論を示したことがあった。結局、エイドリアン・ラインはどこにも行かなかった。むしろ、現実のほうが彼に近づいている。再評価されていい映画監督である。



ちなみに徳島のデリヘルに「危険な情事」という店があったらしい。すごいネーミングですね。



初出 「西参道シネマブログ」 2012-05-15



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