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『白夜行』  堀北真希は悪くない。でも、戦う相手が悪かったかも。

評価 ☆☆



あらすじ
昭和五十五年、埼玉県にある廃ビルで質屋の店主である桐原洋介が刺殺死体で発見された。発見者はこの廃ビルで遊んでいた小学男児ふたりだった。秘密基地ごっこをよくしているこの廃ビルによく入っていた。この日は扉の向こう側にドラム缶が置かれていたという。



映画と原作を比べると、多くの場合は小説の方が面白い。映画には時間的制限があるが小説には時間的な制限がないのが大きな要因だ。もちろん、それだけじゃない。



長くても2時間半にまとめなきゃいけない理由はいくつかある。映画館側の論理だが、一日に上映回数を多くすればするほど回転率が上がり、儲けることができる。最近は、映画館の客の入りが極端に悪いため、そんなことも考えないようになってきているようだ。



観客側も2時間半程度が限度だ。できれば2時間以内にしてほしい。映画館では早送りができないし、退屈な映画は貴重な時間をむしばむような気がする。昔はそうでもなかったけれど、年を取るごとにそういうふうに感じることが増えてきた。



東野圭吾原作の『白夜行』。最初に言っておこう。同名のTBSドラマは素晴らしかった。山田孝之、綾瀬はるか、武田鉄矢たちの代表作としても良いくらいだ。原作は実はさほど面白くない。事実を羅列するだけのファイリング的な構成だから、ふたりの主要人物が何を考えて、どういうつながりをしてきたか、読者の想像力に委ねられることになる。



それを「多分こうだったのでは?」というビハインドシーンを巧みに処理。制作されたのがテレビドラマ『白夜行』だった。森下佳子の脚本が冴えていた。ただし、最後の部分がいつもバタバタなのは森下脚本の弱点。それでも非常に面白かった。



原作はドラマやこの映画ほど面白くない。2013年公開の映画『白夜行』はテレビドラマよりも原作に比較的忠実なストーリー展開だった。監督は深川栄洋。出演は堀北真希、高良健吾。何よりも主人公の堀北真希の冷たい演技が印象的だった。堀北真希という女優はどうなのか? 彼女に得体の知れない何かを感じたひとは多いのではないだろうか。



僕は彼女が綺麗なだけの女優ではない、と考えている。むしろ、このひとはすごく努力のひとなんだなというのがよくわかる。セリフひとつひとつを大切にしていたのは評価すべきだ。



非凡なカットもいくつか見られた。監督の深川栄洋のせいなのか、あるいは撮影の石井一浩のせいなのか、よくわからないけれど。前半で船越英一郎扮する笹垣と同僚が車に乗って現場に向かうシーン。ここは本当に生々しい。なかなか撮影できるカットではない。全体のルックも悪くない。



ただし、原作のせいか、映画の構成のせいか、ストーリー展開ではちょっと強引なところが多い。監督は途中で何かトラブルがあって映画そのものを投げ出したような印象を受ける。この監督の他の作品を観ていないのでよくわからないが、その雑さを上回るパワーは感じられなかった。残念。



堀北真希だって、高良健吾だって、船越英一郎だって頑張ってたじゃないか、と思う。それは僕の妄想だろうか。多分、監督は最後まできっちり仕事をしたかったに違いない。でも、何かがそうさせなかった。映画とはそういうものかもしれない。



いくつかの破綻はあるにしても、みんながいうほど映画『白夜行』は悪くない。



ただしテレビドラマの方はさらに面白い。堀北真希が悪いんじゃない。戦う相手がちょっと悪かったのだ。



初出 「西参道シネマブログ」 2012-5-06



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