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『ホテル・ニューハンプシャー』 ジョディ・フォスターなどの個性派勢揃い。リチャードソン監督的『フォレスト・ガンプ』。

評価 ☆☆



あらすじ
1939年夏、メイン州のアーバスノットのホテルでアルバイトをしていた高校生のウィンは、ホテルの売りとなっていたユダヤ人フロイトによる熊の曲芸を見る。そして、自分もいつか熊のいるホテルを経営したいと思うようになった。



ジョン・アーヴィング原作の映画で何が面白い? と聞かれたら『ガープの世界』。トニー・リチャードソン監督で興味深いのは? と聞かれたら『長距離ランナーの孤独』と答えるだろう。他にもいろいろあるだろうけど。



このふたりのテイストがうまく混ざっているのが『ホテル・ニューハンプシャー』である。ただし、ブレンド加減がうまくいっているからといって非常に美味しいカクテルができているわけではない。ちょっと変わった味だ。同じレシピであっても、作り上げたカクテルはつくったバーテンダーたちによって味が異なるのと同じである。料理なんかもそう。それに、美味しいかどうか判断するのはまた別。



1984年に公開された作品で、ホテル経営をしたい父親と、彼の子供たちの5人の家族を、兄弟たちのさまざまな視点から、家族の生涯を描いている。近親相姦、レイプ、自殺など、悲惨でハードな出来事がこれでもかというくらいに出てくる。そのせいで観ていると意外とつらく感じる。でも、全体としてはさほど暗くない。さまざまな悲劇ですら、どこかコミカルな要素を含んでいるように感じる。その意味では変な作品である。



コミカルさと悲惨さが複雑に絡んでいるのは、ジョン・アーヴィングの原作のせいかもしれない。僕は個人的にあんまり好きな作家ではないけれど。何本か読んだが、どうも話が混乱しすぎている。もっとスッキリしていいんじゃないか、と思う部分がいくつかある。ただし、物語はひとを選ぶから、僕は選ばれなかっただけかもしれない。



映画の方がどっちかというと洗練されている。観終わると、まるでおとぎ話を観せられたかのようだ。でもね。年齢を重ねるとだんだんこの映画のほうがシリアスな作品よりもリアルに見えてくる。不思議だ。人生はハッピーなことが多いわけではない。本当に目を覆いたくなるような悲惨な出来事にも巡り合う。何度も。それでも、ちょっとした嬉しいことがあるだけで、苦しいことでさえ、妙に肯定的に見えてくる。トニー・リチャードソン監督は、その不思議な人生の感覚を軽妙なタッチで描きあげている。



彼の作品はあまり観ていないけれど、乾いた映像で好感がもてる監督というイメージは強い。それでいてスタイリッシュではないのが、またいいです。なんだろう? 不思議な画面でオリジナリティがあります。彼は家族を持ちながらバイセクシャルだったという。エイズの合併症で60代前半で亡くなっている。しかも、最後に隣にいたのはジャンヌ・モローだったらしい。すごい生涯ですね。



出演している俳優たちには美男美女が多い。特にクマの着ぐるみ姿のナスターシャ・キンスキーがカワイイ。ジョディ・フォスターも美しくて、存在感があります。他にも、ロブ・ロウ、ボー・ブリッジスなども出演しているが、彼らもカッコいい。



この映画が好きなテレビ関係者は多い気がする。テレビドラマを観ていると「あれ? この設定は『ホテル・ニューハンプシャー』?」とか、「この曲は『ホテル・ニューハンプシャー』っぽく使ってるんじゃないか?」というのに気づくことが多い。



ちなみに、この映画のテーマ曲みたいに使われているのはオッフェンバックの「ホフマンの舟歌」です。綺麗な曲ですね。僕はこの映画を観て以来「ホフマンの舟歌」を聴くとちょっと落涙するようになった。こういうのは困る。困った条件反射である。でも、悪くない後味のカクテルみたいな映画です。変わった味だけど。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-02-14



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