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『デッドゾーン』 クローネンバーグは内臓グチョグチョだけではない。精緻な人間描写に注目したい。

評価 ☆☆



あらすじ
教師のジョニーは、同僚で恋人のサラと週末のデートを楽しんでいた。結婚を誓い合ったふたりだが、帰り道にジョニーは交通事故に遭う。ジョニーが目覚めたのは病院のベッドの上だった。医師より、昏睡状態が5年間続いたことを知らされる。



デビット・クローネンバーグは嫌いな監督ではないが、両手ばなしに「好き」といえるかは微妙である。



昔、よく話をしていた女性がクローネンバーグの映画を好きだった。クローネンバーグがどんな監督か知っているひとなら笑ってしまうかもしれないが、彼女は「内臓グチョグチョした、あの感覚」が好きなんだそうである。異様な美的センスも大好きだといっていた。



「内臓グチョグチョ」という表現は的確だ。『ザ・フライ』にしても『イグジステンス』にしても、ぬるっとした映像がリアルで気味が悪い。その気持ち悪さを嫌悪する観客も少なくない(実は僕もそのひとり)。



ただし、彼の映画は「内臓グチョグチョ」だけではない。クローネンバーグのもうひとつの顔は人間観察の鋭さ。『デッドゾーン』は、1983年に製作された彼の実質的な出世作であり、人間観察の鋭さが際立っている作品でもある。出演はクリストファー・ウォーケン、ブルック・アダムスなど。



交通事故で特殊な能力を身につけた男性の孤独と恋愛がテーマ。うまくいかない恋愛感情が精緻に描かれていた。冬のシーンが多くて映画全体がどことなく物悲しい。クリストファー・ウォーケンはいつも以上に神経質な顔つきをしていて、僕の好きな『天国の日々』のヒロインでもあったブルック・アダムスも好演。二人の関係が切ない。



原作はスティーブン・キング。彼もこの映画は気に入っていたらしい。キューブリックよりも好意的にクローネンバーグを評価していた。僕もこの映画は嫌いではない。『クラッシュ』もみんながいうほど悪くないと思うけれど、『デッドゾーン』の方が一般からの支持が高い。実際によくできていると思う。



クローネンバーグが「内臓グチョグチョ」だけでないことを証明してくれる映画なので、クローネンバーグ初心者にもおすすめです。それにしても、バラード、バロウズ、キングという現代文学の頂点たちの原作を次々に映画化したクローネンバーグはそれだけですごいのかもしれない。



追記



最近、瀬々敬久監督の『来たるべき光景』(『赫い情事』)を観た。予知能力と山椒大夫と神の存在をからめたポルノ映画。『デッドゾーン』を気に入ったひとはどこかで観てください。瀬々敬久の初期の映画は本当にすごいので。



初出 「西参道シネマブログ」 2012-06-07



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