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『めまい』 ヒッチコックの最高傑作のひとつ。ラストまで独特の美意識に貫かれている。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
深夜のサンフランシスコ。屋根沿いに逃げる犯人を警官と刑事たちが追っていた。刑事のジョン・ファーガスンは足を滑らせて屋根の雨どいに必死にしがみつく。気がついた警官が彼を助けようと手を差し伸べるが、足を滑らせて落ちてしまった。



アルフレッド・ヒッチコック監督作品を何本か観直した。生涯で53本の映画を残した彼の作品の5分の4程度は観ているが、コンプリートとまではいかない。『めまい』は何度もチャンスがあったのに観ることができなかった作品のひとつだった。



『めまい』は1958年公開。監督はもちろんヒッチコック。出演はキム・ノヴァク、ジェームズ・スチュワートなど。素晴らしい。非常に面白かった。作品の構成も独特だった。さらに、キム・ノヴァク、ジェームズ・スチュアートの絡みもセクシーである。



この作品構成をそのまま流用しているのが、ポール・バーホーベン監督の『氷の微笑』だろう。バーホーベン監督の提唱した三部作『ロボコップ』『トータル・リコール』『氷の微笑』の根底をなすものがダブル・リアリティというのもよくわかった。この映画に大きなモチーフがある。



『めまい』に影響を受けている監督は多い。デヴィット・リンチもそのひとりだ。『めまい』の中にエンパイアホテルという建物が登場するが、この場末のホテルと似たデザインだ。同じ名前のホテルをリンチは作品に幾度となく登場させている。さらに彼の監督作品である『マルホランド・ドライブ』や『ロスト・ハイウェイ』にも、『めまい』のテイストは織り込まれている。



芸術作品は、独特の美意識を持って描いていなければ長く生き残れないということだろう。もちろん映画は消耗品であり、次々と新しい作品が登場する。リンチも、バーホーベンも、大ヒットにはさほど縁のない監督かもしれない。しかし、訳がわからないと批評されても美意識がしっかり伝わる作品は息が長い。何年も経っていくと美意識が貫かれていない作品が淘汰されて、残った映画は美意識を感じさせてくれるものばかりである。



小説だってそうだろう。川端康成だって、三島由紀夫だって、谷崎潤一郎だって、美意識を醸し出している作品は息が長い。最近は美意識を感じることができない作家が増えている。何度も読み返す気が起きない。具体的なタイトルは言えないけどね。



いずれにしても、『めまい』は美意識が貫かれた素晴らしい作品だった。さらにこれほど後世の映画に影響を与え続けている映画もないのでは? ヒッチコックの底力を感じさせる傑作である。



初出 「西参道シネマブログ」 2010-12-21



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