見出し画像

『さらば愛しき大地』 映画監督柳町光男の代表作。薬物に蝕まれ、堕落する男の末路を詩的に描く。

評価 ☆☆☆☆




あらすじ
茨城県鹿島、ダンプカーの運転手である若者幸雄は、家を離れて東京に行った弟の明彦を恨んでいた。ある夕食時に些細なことで暴れ出して、両親や妻の文江は手の付けられない幸雄を柱へ縛り付けた。そんな短気な男が生き甲斐としていたのは幼い息子たちだった。



リアルとリアリティという問題を、今更、解説しても仕方がないのかもしれない。映画を単なるエンターティメントあるいはモンキービジネスと考えるか、20世紀の生んだアートと捉えるかという二元論も同様に答えを失っている。要するにどっちに転んでも面白ければいいのだが。




ところで、映画を観ていると妙に引っかかる作品がある。1982年公開の『さらば愛しき大地』もそのひとつ。監督は柳町光男。彼の監督作品としては第3作目にあたる。根津甚八、秋吉久美子が出演していた。




鹿島周辺の物語で工業化に伴い、変容する農家と狂い始める男の話である。覚せい剤は出るし、18禁な映像がいっぱい出てくる。かなりヘヴィな内容ではある。




この中で、覚せい剤を打った主人公がボーっと田んぼを見ているとサワサワと緑の田んぼに風が流れるというシーンがある。このカットが印象的だった。大変苦労して撮影したというエピソードを聞いたが、苦労しただけのことはある。サラリとしているようで、妙に生々しいというか、今時の表現で言えば「神カット」。これを観るだけでも価値はある。堕落していくのはこういうことなんだろうな。きっと。




根津も、秋吉もパワー全開で演じている。素晴らしい。暗い映画でエンターティメント的な要素が少ないけれど、こういう映画はもっと評価されてもいいのではないか。観ている人が少ないけれど。この映画は本当に映画となっている瞬間がある作品。




柳町光男作品はコンプリートしてみたいですね。それだけの価値のある映画監督だと思うが。他の映画はどうなのかな。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-08-11



ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?