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『交渉人』 映画の観客は、常に視覚的な刺激に反応する。K・スペイシーは十分それを知り尽くしている俳優。

評価 ☆☆



あらすじ
シカゴ警察東地区で働く交渉人ダニーが、人質立て籠もり事件の交渉に当たっていた。犯人は、自分の娘を人質にして女房を呼べと脅迫。様子をモニターしていた狙撃班の隊長のアダムは強行突入を提案した。緊迫する状況下でダニーは交渉を続けていく。



ケヴィン・スペイシーという役者がいる。演技が上手くて評価が高く、存在感もあるといわれている。だがひとつの疑問がある。「我々は本当に演技の上手さを理解できるのだろうか? 」。



例えば、あなたはどのくらい英語が理解できる? 流暢な英語がわかったとしても、本当に台詞回しがうまいかどうかをどうやったらチェックできる? 存在感があるのは幻想ではないのか?



映画『交渉人』は1998年公開の作品で、監督はF・ゲイリー・グレイ。この映画にはさまざまな役者が登場している。サミュエル・L・ジャクソン、ケヴィン・スペイシー、デヴィッド・モース、ロン・リフキン、ジョン・スペンサーなど。どこかの犯罪映画で一度は目にしたことのあるような俳優ばかりだ。



その中で主役を張っているのがサミュエル・L・ジャクソンとケヴィン・スペイシーのふたり。交渉人のプロが立てこもり、一方でその交渉人が交渉を行いながら、事件を解決していくという筋立て。



最初に観た時は「非常に良くできている」と感じた。でも、最近になって再度鑑賞したら「あれれ?」ってところが多いことに気づく。これはフェイクな映画というか、観客を騙している映画ではないだろうか。



僕は凝った映画は嫌いではない。でも騙そうとしている映画は好きじゃない。『ユージュアル・サスペクツ』とかもその一種だろうか。



なにせ、クリス・セイビアンなんて登場人物の名前からして観客を馬鹿にしている。警察内部の問題を解決するのが交渉の条件なんて、よく考えたら馬鹿もほどほどにしろよな、というような設定である。



それでも、なんとか緊張感を持って見続けることができるのはサミュエル・L・ジャクソン、ケヴィン・スペイシーの存在感が大きいからだ。



確かに英語が聞けなくても、眼の動かし方、台詞の喋るポイント、体の揺らし方、歩き方、首の角度などで、観客は登場人物たちの感情を読み取ろうとする。それを意図的に演技して、示しているがケヴィン・スペイシーという役者である。



特に彼は、目線の動かし方と姿勢によって自分のキャラクターを表現しようとする意図が見える。そこは興味深かった。映画の持っている情報の多くは視覚に依存していることを、この役者は十分に理解している。



ところが、俳優たちは監督じゃないから全体を考えた動きには鈍い。『交渉人』でも、全体を通してみるとケヴィン・スペイシーが妙に浮いている。お腹が出ていてオタクみたいなズボンのはき方は、印象には残るが映画そのものを壊しているのは事実だ。



サミュエル・L・ジャクソンの方が品が良く見えるのは、多分、映画全体を考えて演技しているせいかもしれない。



追記



ケヴィン・スペイシーは児童買春で逮捕され、ハリウッドを追放されてしまった。彼は自分の才能に溺れたんだろう。みなさんも気をつけましょう。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-03-24



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