見出し画像

『シェルブールの雨傘』 ラストシーンが切ない。音楽も、構成も、カット割りも、すべてが実験的。

評価 ☆☆



あらすじ
1957年11月、ジュヌヴィエーヴはシェルブールにある雨傘屋の娘。近くの自動車工場に勤める恋人ギイを愛していた。ある日、ギイに召集令状が来て、彼は二年間の義務兵役に発つことになった。



ハリウッド映画ばかりを観ていると物足らなくなる時がある。あまりにストレートすぎるからか? 確かに疲れた人生を癒すには、馬鹿笑い、過剰なアクションも必要かもしれない。でも、そんなもので紛らわせても、映画館を出てしまえば人生に逆戻りしてしまう。ハリウッド映画をずっと観ているとだんだんとイヤになる。むしろ人生そのものを変えたほうが健康にいいかもしれない。



徹底的に心に残る映画を何度も噛みしめるほうがいい、と感じることがある。1964年公開の『シェルブールの雨傘』はそれを体験をさせてくれる素晴らしい作品である。監督はジャック・ドゥミ。



この映画はミュージカル的であって、ミュージカルではない。普通のミュージカルは感情が昂ぶった場面だけに踊りが展開されるけれど、この作品は全編、メロディに載せた台詞で綴られている。まさに実験的試みである。オペラみたいだけど、常に昂揚しているわけではない。当たり前か。



同時にストーリーが切ないし、ミッシェル・ルグランの音楽、カトリーヌ・ドヌーブの美しさも際立っている。意欲的というか、他に類を見ないというか、カット割りや音楽の使い方はオリジナリティ溢れている。これって本当に商業映画なの? と途中から疑ってしまうほど。ハリウッドで「こういうのやりたい」といっても却下されるだろうし、日本でも同じだろう。



観ているときは意識しなかったけれど、この物語はアルジェリアの独立戦争が背景になっている。『アルジェの戦い』という映画で観てください。1954年から62年にかけてのアルジェリア独立戦争に関わるフランスの位置づけなどがよくわかるはずだ。



戦争によって引き裂かれるふたりというモチーフは、20世紀に制作される映画群の定番ではあるし、特にフランスの恋愛映画には一時期多かった。それをこういう形で料理するというのは本当に珍しいし斬新である。



うちの奥さんとこの映画を観たとき、奥さん曰く「意外と面白いわね」とひとこと。そうなのだ。この映画は予想以上に面白いのだ。



『ティファニーで朝食を』という映画がある。こっちは観ているときは退屈でしょうがなかった。でも、何年経っても忘れられない。この映画は観ているときから面白いし、何年経ってもふと思い出してしまう魅力がある。いったいそれが何なのか? 正直よくわからない。



ラストシーンは映画史上に残る名場面である。こんなに実験的な映画を観せられて、最後に落涙するなんて。いや、落涙しないひとはいないはずだ。不思議な映画である。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-05-30



ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?