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『花様年華』 タイトルの四字熟語は年齢と共にひとも変わる、という意味。素晴らしい恋愛映画。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
1962年の香港。スエン夫人の家に内覧に来たチャン夫人はその部屋を間借りすることを決めて、帰宅する。一足遅れで、新聞社のチャウも訪ねた。スエン夫人は隣人の部屋が一室空いていると教えた。こうして、チャウはクウ家の一室を間借りすることになる。



今回は自慢話から始まる。といっても、あんまり自慢にならないけれど、僕はマギー・チャンと一緒の部屋に30分もいたことがある。すごでしょ。ふたりきりになったのが10分くらいあった。といっても、何のことはない。彼女がまだ売れていないころにインタビューしたというだけです。



当時、マギー・チャンにインタビューしたのは本当に数名で僕が一番長かったという、それだけのことだ。ツーショットの写真とかを撮っておけばよかった。インタビュー中、彼女はとても優しく、真摯に作品に関しての自分の意見を述べていたし、英語が拙い僕に彼女は優しくしてくれました。何度か視線が合い、笑い合うだけでも、彼女の魅力は伝わってきた。何人かの美人女優取材してきたけど、なんていうかその次のステップに到達している俳優さんという感じがしていた。



もう世界的な大女優となってしまった彼女の魅力を楽しめるのが『花様年華』である。2000年公開の、ウォン・カーウァイ監督作品で、マギー・チャンとトニー・レオン主演の恋愛映画である。この続編として製作されたのが『2046』である。しっとりとした映画だ。成瀬巳喜男の『乱れ雲』を連想してしまったのは私だけではないはずだろう。なんだろうか。あの空気、あの雰囲気は、まさに色気のある大人の映画という感じだった。



映画のタイトルとなっている『花様年華』は四字熟語。花のように人間も年齢とともに形も変わっていくという意味である。



映像は素晴らしいし、俳優たちの演技も凄いし、音楽も見事にマッチしている。撮影監督の仕事も素晴らしいです。クレジットには「クリストファー・ドイル」「リー・ピンピン」のふたりの名が連ねてある。これはすごいことだ。いまやふたりとも世界を代表するカメラマンである。どちらの色が濃いかというと『恋々風塵』『夏至』のリー・ビンビンの方だと思う。



ラブシーンらしいラブシーンはないし、やたらと台詞が少ないし、眠くなる要素はいっぱいある。でも、それを上回るほどの美しさと映画的記号に溢れている。



ウォン・カーウァイ監督は、この映画でカンヌで受賞されるべきだった。『ブエノスアイレス』で受賞されるべきではなかったのでは? と思えるほどにこの映画の完成度はすごい。



批評の中には「カーウァイ監督のわざとらしさが見える」という指摘もある。それは当たっていない。カーウァイ監督が最も自分の個性をなくし、作品作りに集中した映画である。多分、そのひとは映画を観ていないのだろう。本数ではない。感覚的に欠落しているのだ。続編である『2046』はその逆で、彼のやりたい放題という感じである。



この映画は少なくとも30歳以上が観るべきというか、ある程度年を重ねないとわからないかもしれない。あるいは熟成が必要である。それをカルトあるいはアート、シネフィル的映画というカテゴライズをされるのは悲しいし、馬鹿らしい。単に恋愛などに関して未熟なだけなのだろう。



男と女の間に通う心の襞を丁寧に描き上げるのは、かつて日本映画の得意としたところなのに。そういう映画を1970年代まで日本は量産してきたし、それを求める大人の男女が日本には多かった。いまみたいに引きこもりの、ひとりよがりなだけのオタク系男女の増殖している日本とわけが違う。ただしどっちがいいかどうかはわからないけど。



アンコールワットのエピソードもいい。『うなぎ』のラストにも通じるような、まさに映画が映画たる瞬間である。



音楽クレジットに梅林茂の名前があるが、鈴木清順の『夢二』の曲が流用されているせいだ。本歌取りみたいだけど、本家の作品よりも上手い使い方がされている。憎いね。



追記



この映画は、英BBCが選んだ「21世紀 最高の映画100本」で、2位に選ばれているという。すごいね。でも、1位は『マルホランド・ドライブ』だから。そういう最高さから選んだ映画だと思って考えると、むべなるかな、という感じがする。



続 追記



なんで、マギー・チャンに取材をしたのか忘れてしまった。もうひとり、その時にインタビューしたのはロレッタ・リーだった。最近、監督をインタビューしたのを思い出す。誰だっけ? と考えていた。彼はまだ日本映画を詳しくなくて「鈴木清順という監督がいるよ」と教えてあげた。うーん。多分、あの監督って、もしかして、ウォン・カーウァイだったのかな。うちにふたりで撮影した写真があるはずなんだが。妄想じゃないですよ。ホントだってば。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-07-28



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