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『天国の日々』 マジックアワーのルックが素晴らしい。イナゴの大群シーンも印象的。

評価 ☆☆☆☆



あらすじ
ビルと妹のリンダ、恋人のアビーはその日暮らしをしながら貨物列車を乗り継いでテキサスまで流れ着いた。ちょうどテキサスの農場で麦刈り労働者を募集していた。3人は広大な麦畑へ移動する。農場主はチャックというまだ若い青年で立派な屋敷でひとり暮らしをしていた。



テレンス・マリックは、これまでに3本の映画しか製作していない(原稿が書かれた2005年時点で。だが)。『地獄の逃避行』『天国の日々』そして『シン・レッド・ライン』。他に、脚本作品が2本か3本。プロデューサーとして1本参加しているくらい。ジョン・フォードは100本以上、アルフレッド・ヒッチコックも50本以上などと比較すると、かなり少ないことがわかる。



『天国の日々』は奇妙で、同時に素晴らしい映画である。1978年に製作された作品。20世紀初めのテキサスの農場に働く、日雇い労働者の夫婦と雇い主との関係を描いている。サム・シェパード、リチャード・ギア、ブルック・アダムスが出演。ちょっと切ない三角関係です。



この映画が世界的に有名になったのは、ネストール・アルメンドロスが撮影した映像だ。マジックアワーと呼ばれる特定の時間帯だけを選び、撮影が繰り返し行われた。そのせいで映画そのものが独特の光線に彩られた世界を映し出している。とにかく美しい。




後日談によると、撮影すべてをネストール・アルメンドロスが手掛けたのではなく、一部はハスケル・ウェクスラーという撮影監督が担当している(実際はアルメンドロスよりもカット数はウェクスラーのほうが多いといわれている)。



このマジックアワーとは、日の入りの直後、日の出の直前の時間のことで、日本で言う薄明である。夕方のこの時間は、昔から逢魔刻(おうまがこく)の異名を持ち、不思議なことが起こる時間と言われてたりもする。



映画を観るとわかるが、太陽の姿が地平線下にあるために光がどこからどういうふうに当たっているかわからなくなっている。昼なのか夜なのかすらわからない。夕焼け後が延々を続く感じだ。



日本でのマジックアワーは10分程度だが、アメリカでは結構長い。といっても何時間もあるわけじゃないので、撮影にはかなりの日数がかかったらしい。しかし苦労しているだけある。その美しさは息を呑むほどだ。



映画を観ている間、僕はこの映画が終わらないことを祈るような気持ちだった。それほどに心地よい光と影の世界で、ちっぽけで切ない人間関係が描かれる。そして、何気ないはずの、あのラストシーンには背筋が凍るような感動を覚えた。涙が流れるなんてまだ感動としては低レベルなのかもしれない。本物の感動には涙など一切必要ないのだ。そのことに初めて気づかせてくれた映画でもあった。



ただし、わからない点もある。若きリチャード・ギアもいいけれど、サム・シェパードが演じる雇い主がなかなか良い。でも、ふたりがどうしてブルック・アダムスにそんなに恋心を抱くのか、僕にはよくわからなかった。彼女も美しいけれど、どこにそんなに惹かれるのかを納得できる要素がない。それは多分、僕の個人的な女性の趣向なのだろう。



こうやって説明すると、テレンス・マリックの映画というよりも、ネストール・アルメンドロスの映画みたいだね。でも、これほどに映像にこだわりを見せる監督は少なくなった。CGとフィルムの違いは本当にこんなにも歴然としているのに。



追記



もうひとつこの映画の見どころはイナゴの大群シーンだ。実際にイナゴを集めてなんてするわけないじゃないか、と思っていたら、なんと実際のイナゴ数万匹を集めての撮影だったという。すごいね。ただし、数万匹じゃ足らないので、遠景シーンは本物ではなくてピーナッツの殻を飛行機から落とし、それを逆回転させているらしい。このシーンも素晴らしいです。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-01-25



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