『ボーン・アルティメイタム』 アクション映画の進化形。CGを排した実写の凄み。

評価 ☆☆☆



あらすじ
アメリカ・CIA本部、特殊組織のスパイ、ジェイソン・ボーンの動きを女性指揮官のパメラは、CIA長官のエズラたちに説明。ボーンがこれまで濡れ衣を着せられた証拠テープを聞かせたが、彼らはボーンを危険視。彼の抹殺を再び行おうと動き始める。



才能のある人間がこの世の中には存在する。圧倒的な才能の前に我々は立ち尽くすしかない。例えば、私の家の近くにイタリアンレストランがある。そこのシェフは天才という形容詞でしか表現できない。彼女の圧倒的な料理に、私は叩きのめされた。彼女は最近、店を閉めたがっていると聞いた。理由は店が大きすぎるから味が追求できないからだそうだ。



ところで、映画の基本は映像である。画面にどのようなものが映っているか、どういうふうに写っているか、それがすべてであるし、その積み重ねが映画になる。『ボーン・アルティメイタム』の監督ポール・グリーングラスはそれが非常によくわかっている。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(覚えにくいなぁ)、ギレルモ・デル・トロ(言いにくいなぁ)そしてポール・グリーングラスは、素晴らしい才能の持ち主たちである。



『ボーン・アルティメイタム』は2007年に公開された作品。監督はポール・グリーングラス、出演はマット・デイモン、ジュリア・スタイルズなど。ポール・グリーングラス監督の才能を堪能できる一本である。



話を戻そう。3人の映画監督たちに共通しているのは映像のスタイルである。話に依存しない映像を作り上げることができる。もちろん、物語が素晴らしい監督もいるが、映画監督がオリジナルの映像スタイルを持つことの重要性を再認識させられる。



映像のスタイルが確立しているせいで、ストーリーの不都合な部分が結構許せる。「あんなに簡単にCIAに行けるのなら、最初から行けよ」とか「暗殺者があれほど間抜けなわけないだろう」とか「自分とは何かにこだわっているのに人殺しするなよ」とか言っちゃいけない。「望遠レンズで覗いてたら手ぶれがひどくて画面が歪みっぱなじゃないの? ステディカム使ってるのか?」とか「さすがにキーワードひとつから世界中の人間から特定できないって」とかのツッコミも愛嬌に思えてくる。



そういう不合理性を凌駕してボーンはひたすらクールに戦い続ける。イマジネーション豊かなアクションがいい。マット・デイモン、スコット・グレン、デヴィッド・ストラゾーンたちは存在感を出している。ジョアン・アレンもかっこいい。相変わらず美人が出てこないけれど、それもまぁ許せる。



登場人物たちは常に冷静である。みんな疲れているけど「やってられるかぁ」なんて大声を出したりしないで、黙々と仕事をこなす。『ボーン・アルティメイタム』を観終わると、仕事で必要なものは冷静さであることがよくわかる。



音楽の使い方も、音の使い方も繊細である。この映画の評価の中には、音の使い方に関しての記述が少ないが、この映画の音の使い方は本当に素晴らしい。秀逸である。



ところで、近所にいる天才シェフの料理もすばらしく進化している。半年前よりもずっと美味しくなっている。ありえない。どこまで進化するのか? 予約が異様に取りにくくなっているから、わざわざ探して行こうとしないようにしないでほしいものだ。



それにしても「天才は存在するのだ」。残念なことに。



追記



10年ぶりくらいに天才シェフのレストランに再訪した。ところが、若き日の先鋭ぶりは消えていた。まるで「年を取った」ような味。日々の生活に追われて、精神的に疲れていることが料理を通じて伝わった。ちょっと寂しかったな。毎日の生活にゆとりを持ち、同時に、繊細さを持ちつつ向上心を忘れずに生きないといけないのだろう。天才も年を取るのか。気をつけよう。自戒を込めて。



初出 「西参道シネマブログ」 2008-06-23



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