偏見を認識したさいしょの話と、いまの話

小学校3年生。
4月、8歳。
私立の小学校から、公立の小学校へ。

それは、宿題のなかった環境から、宿題が存在する環境への移動だった。

「前の学校でも宿題はあったはずでしょう。
私立の学校だったからもっとたくさんあったはず。量は減っているはずなのに、どうしてやらないの」
と、当時の担任から詰められた。

8歳の言語力では、うまく伝えられず、「はい」と言うことしかできなかった。
「宿題」というものは、つい先月までは、私の放課後になかったというのに。

それが、私にとっての「偏見」の原体験だったと思う。

あとで分かったことだが、私立の小学校(私が通っていたところだけかもしれないが)では、授業内でカリキュラムが完了するように設定されているため、宿題はあまり設けないらしかった。

入学受験により、クラス全員の学力がある程度均一化された状態になっているため、宿題に頼らずとも、教室での授業だけで定着までがほぼ完了する、といったところだろうか。
放課後に塾やピアノやスイミングなど、習い事をする生徒も多かったので、納得ではある。

とは言え、全く宿題ゼロというわけでもない。
覚えているのは、こくごの教科書に載っている単元の音読。「声に出して読んだ」ということを保護者に認証してもらえさえすればOKの課題である。
これについては、私は嫌いではなく、母に披露してはその都度チェックシートに○をつけてもらった記憶がある。

話を戻す。
その時思ったのは、「想像だけで決めつけるような人にはなりたくない」ということ。
すべて、相手の憶測で決めたものを自分の前提として、話をされた。
自分の知識や教養の範囲内「だけ」で、他人の状況や物事を「決めつける」、そういう事はしたくない、と思ったのを覚えている。

そう、強く思うほど、
その事がとっても悲しかったのだ。

8歳にして、教師に対して「この人はわかってくれない」と失望した私は、その後、教師には心を開かなかった。
徐々にひねくれ、舐めた態度をとるクソガキへと変貌する。

授業はわりと真面目に聞いたし、5年生からは仲良しの友達が塾に行くというので同じ塾に通い始め、成績は中の上程度をキープしたが、素行は悪かった。
授業のサボリ、無断欠席、禁止されていたゲーセン通い、タバコを吸うようなヤンチャめな同級生との遊び、などである。

加えて、コミュニケーションが上手でないので、孤立しがちであったし、力のあるグループに目をつけられてイジメ紛いのこともされていた。

しかし、教師を信頼していないので、それらを相談することは一切しなかった。
さらに言うと、家族にも相談できなかった。

「どうしようもない孤独」を偏見によってもたらされた。
この出来事は、私の中に深く息づいている。

さて、

ここからは現在の話に変わるのだが、
去年の6月、わたしは転職した。

前職・写真スタジオの「自分の所属する組織内の制作をするデザイナー」から、「クライアントに提出するクリエイティブも兼任するデザイナー」になった。

同年の9月、私は上長面談にて注意を受けることになった。
「外出交通費や制作の利用素材費の申請ができていない」
「残業申請をせずに残業をしすぎている」
叱責の内容は、大きくはその2点である。

それに対する私の言い分は、
「前職は組織内のデザイナーであったため、すべてが社屋内で完結し、外出を伴う業務は全くなかった。
制作の素材も会社に事前申請で決済をもらう方式で、自ら仮払いを行う方式ではなかった。
さらに、みなし残業制であり、残業代はすべて固定給与内に含まれていた」
そのため、どれも申請の機会がなかった。

慣れないタスクであるため、申請処理を忘れたり、業務時間内に収まらないデザイン作業が発生し、残業に至る。

というものだった。
至極、真っ当な理由だと、自分では思っている。

この記事をここまで読んでくださっている、優しいあなたに聞きたい。
自分が叱責した部下から、叱責の内容について、そう返答が来たらどうするだろうか?

私なら、そのように認識した上で、申請フローを見直し、改めてわかりやすいように説明し、次回の申請漏れを防ぐようにサポートをする。

私の上長にあたる人は、50代男性・営業職出身だった。弊社の役員でもある。

その人の判断は、ざっくり言うと、
「個人の問題なので、すべて個人の努力に任せて申請漏れのないようにする」
だった。

甚だおかしい。
と、今では思うことができる。

もし、あなたが彼と同じ事を考えたのなら、その意見は改めたほうが賢明だと思う。

理由は、それは職務放棄に他ならないからだ。
個人の範囲内だけでそれが叶うのなら、上長の責任や価値とは、何なのだろうか?

ずっと考えていた。

その答えは、先週の金曜日に出た気がした。

その一件をきっかけに、いくつかの不誠実な対応を受け、徐々に上長に対して不信感を抱いていったのだが、
先週の金曜日。

急に、上長宛に人事担当より連絡が入った。
私のいる関西のオフィスから、東北のオフィスに一時異動・勤務するようにと。

期間は来週の月曜日から、一ヶ月間。

来週の月曜日とは、つまり、今日である。

今日から私は、偏見に悩むことはない。

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