上司があかんたれすぎる件

 是界房は激怒した。必ず、かの無知ボンクラの上司を除かなければならぬと決意した。

……いや、本当に参った。

役所の役職はわかりにくいと思うので、民間で馴染みの言葉に置き換えるが、
上から課長、課長代理、係長がいるとすると、この係長にあたる上司が、あまりにも不誠実なことをやらかしたのだ。

 あんまり深くは説明しないが、民間でいう稟議書のようなものがある。
で、この係長が稟議書を作成した。
通常はそのまま上の課長代理→課長に決裁をもらいにいくのだが、この稟議書の内容があまりにも複雑であるため、ある程度内容に関わっていた是界房も決裁の枠に組み込まれたのだ。

ハンコを押さねばならぬ(実際は電子だが)となれば、真面目に確認せねばならぬ。
そう思ってすぐにチェックをして、修正すべき点や確認すべき点を係長に伝えた。
その中で、どうも要件の解釈に自信がない事柄があったので、「国か府に確認したほうがいいです。」と伝えた。

すると、なにゆえかはわからないがその係長、頑なに国・府に電話するのを嫌がるではないか!
電話したくないがため、何度も何度も「これでいいんじゃないかな」と尋ねてくる。
国や府に確認しなくてもいい、という言質を取ろうとして何度も尋ねてくる。
「確証が得られないので、明日国か府に電話して確認してください。」としか答えられないのに、何度も聞いてくる。
先輩にも聞く。是界房と先輩を交互に何度も聞き粘る。

その粘りっぷりに怒りを覚え、かつ、自分の仕事に集中する時間を削がれてしまうため、是界房は途中で帰った。
なんとなく、帰り際に「お疲れ様です」と言った時の係長の不機嫌な表情から、何かろくでもないことを企んでそうな予感が少しあった。

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 その翌日、つまり本日。
悪い予感は的中し、係長は不誠実な行動をした。
是界房を決裁の枠から外し、代わりに先輩を枠に加え、国や府に確認することなく稟議書の決裁を進めていたのだ。

しかし、是界房の指摘した点を無視したまま、書類を整えられるとは思えない。
「指摘した点はどうしたんですか?解決してないじゃないですか。」と係長に尋ねた。
すると、何を聞いても係長は「○○さん(先輩)に精査してもらったから。大丈夫だから。」と繰り返す。
質問に具体的な内容では答えず、ひたすら「大丈夫だから。」しか言わない。
ならば、是界房が国に電話するので、それまで待ってくれと提案したのだが、それに対しても「もう心配はいらないから。大丈夫。」と答えてくる。

昨日の様子からすると、係長はちゃんと先輩に前提を伝えていなかった。
横で聞いている印象だと、不都合な点はわざとなのかそうでないのか、あえて言ってないようなふげだった。(きっとわざとだが)

そして、先輩についても、仕事は早いが結構テキトーな働きをする印象のある人だ。

指摘した点を何も解決せず、ごまかして、そのために決裁の枠から抜くという、不誠実で無責任で浅はかな行為を目の当たりにして、是界房は放心状態に陥った。

厳しくうるさい人間は決裁の枠から外してしまおうなんて、決裁の意味を為さないではないか。

こんな人間を見たことがない。

いや、たぶん、本当はこういう人間ばかりなのだろう。
かなり珍しい正直者の両親に躾けられたために、そんなロクデナシを知らずに生きてきたのだ。

何を言っても無駄なので、一旦は係長の言うことを受け入れ、「わかりました」と言うことにした。
それから、国の担当者に電話して、内容を精査して、最後の決裁者である課長にその資料を渡した。
(他の仕事も山積みなのに、3時間くらいかかった。泣きたい。)
あんまり事の詳細を伝えたくはなかったが、
課長に「どうして今の段階で係長にそれを言えないのか?」と尋ねられ、簡単に事情を説明せざるを得なかった。

どうして、あそこまで無責任になれるのだろう?
どうして、あそこまで電話で問い合わせるのを嫌がったのだろう?
どうして、元々入っていた決裁の枠から抜くという暴挙に出て、それを説明することなくやり過ごせると考えるのだろう?

……本当に理解不能だ。
こんな、愚かで不誠実な人間がいるなんて驚いた。
わからない、わからない。

 家に帰ってから両親に愚痴ると、「もうお前はハンコを押さなくてもいいんだから、無視しておきなさい。間違っていても仕方ない。(決裁の枠が変わった)その先輩に責任を取ってもらいなさい。」と言われた。

自分で調べて、資料を作って、課長にそれを渡したのはやり過ぎだったのかもしれない。
そこは少し後悔した。
ただ、あの時の自分は、ほぼ確実に間違いのある内容を、悪巧みによってごまかそうとする行為が許せず、怒りでわなわな震えていた。
あれを無視してやりすごすのは、たぶん無理だったのだろうなとは思う。

上手く世渡りできない自分が悔しいのと、
あんな暴挙に出る不誠実で愚かな人間がいるという嫌悪感とで、今とても落ち込んでいる。

自分は思ったよりもはるかに真面目で、責任感が強いようだ。
もしかすると、そうして融通が利かないもんだから、人との壁を作って、友達ができないのかもしれない。
そう思うと、なんだか消えてしまいたい気分になる。

この世は自分にとって生きにくい。
いつか、自分と考え方や価値観が一致する、真面目で誠実な友に出会えないものだろうか…。
せめて、両親と同じくらい正直な友に出会いたいものだ。

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