R_B < Part 5 (epilogue) >
[綺麗ね……]
誰かの声がした。
首を巡らせるが、何も視界には映らない。
[これほど鮮やかな色は、確かに珍しいですね]
[そうなんですか?先生……]
いつ果てるとも知れぬ落下のスピードが緩み、ふわりと抱かれる感覚でそれは終わった。
自分がとても小さい存在に感じられる。
[……統クンよね?芥]
懐かしい声。どこで聞いたのだろう……。
[ああ。これは彼からのメッセージだよ]
続いて脳裡に響いたのは、穏やかな、確信に満ちた一言。
[統は、無事に戻れたんだ]
(……戻れた?!)
唐突に意識が切り替わった。
母親の胸に抱かれる感覚は、温かい波の揺れに取って代わる。
反射的に伸ばした両腕が砂地に触れた。
顔を上げれば、見覚えのある海岸線。その向こうに、今まさに夕陽が沈もうとしていた。
[ありがとね、統クン……元気でいてね……]
呆然とする彼の耳に、彩の声が今一度、聞こえた気がした。
(綺麗、か……)
砂浜に座り込んだまま夕陽を眺めている間に、空は一面、見事な茜色に染まっていく。
(夕焼け……)
お前の色だと、以前言われた。
彩も、この色を褒めてくれた。
「……ホント、綺麗だな」
皆が言っていたのは、これ程までに鮮やかで美しい色だったのか。
「うん……悪くねーや、この色も」
最後まで小さく心に残っていた棘が、溶けて消えていく。
「ありがとう。彩さん……芥」
絶望から救い出してくれた恩人の名を小さく呟き、統は立ち上がった。
------ Family_了 ------
20211018
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