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R_B <Part 0-2(1/3)>


【 The Wheel of Fortune 】


 鈍い音が頭の中で響いた。視界に火花が飛ぶと言うのは本当なんだよな。
 頭がぐらぐらする。口の中を切るなんて、もう日常茶飯事だ。


(どいつもこいつも……ホント、容赦ねーや)


 人数比、1対5。当然ながら、1が俺。
 おまけに刃物を持つ向こうに対して、こっちは素手。


 ……もう良いじゃねーか。いっそ殺してくれ。
 こんな俺なんか生きてる意味も価値も無い。


「いつまで寝てんだよ。ほら」


 厳つい奴が俺の頭を掴む。その勢いのまま無理矢理立たされた。
 途端に胸ぐらを掴まれ、首元には鋭い金属の感触……けど、どっちも震えてるじゃえーかよ。

 下っ端の度胸試しのエサか、俺は。


(ま、俺にはそれがお似合いって事だけどさ)


 延々と嬲られるのはゴメンだ。早く終わらせてくれ。


「ひっ……」


 赤い瞳に睨まれ、知らず一歩後退る相手の右腕を、統はすかさず捉えた。
 そのまま耳元で囁いてやる。


「さっさと殺れ」


 ……直後、6人の居る空間は耳を擘くような絶叫に包まれた。


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「それって私刑じゃないのか?」

「とうとう1人死んだとよ」

「誰が」

「それが、08小隊の……」


 朝の食堂では、未明に起こった新入り兵の件でもちきりだった。


「何で“あいつ”が無事なのさ」

「それなりに重傷らしいけど」

「差し違えたって事か?」

「いや、“あいつ”に腕を掴まれた途端に何か喚きまくって、そのまま窓から飛び降りたって……」

「何だそれ、やっぱ呪いかよ」

「次はどこに回されんだろな。ウチには来てほしくねぇ」

「こっちだって」


 噂の主は、入隊して1ヶ月も経たない内に4つの小隊で“事件”を起こしていた。結局、同じ隊に5日以上所属した事が無い。


「最年少だろ?確か」

「そう。16歳と1日で入隊」

「やるなあ。さすが不吉の権化」


(……何だかなぁ)


 一向に止まる事の無い噂話を耳にしながら(それが目的だから構わないのだが)、敬は窓際の席で朝食を摂っていた。
 噂の主は、薄鈍 統。本人の後ろ姿はこの前見かけたが、それだけで『ここでもキツイだろうな』と思ったものだ。

 あの髪。
 この国で厄災の相と言われる色。

 くだらない迷信だと頭では分かっていても、感情的にはなかなか受け入れられない……それどころか、それを頭から信じ込む人間が圧倒的多数なのだ。


「よう、敬」

「おっす」


 前の席に仁がやって来た。すぐに黙々と食べ始める。
 その光景を目にした近くの数人が今度は2人を見て『ほら、あれが』『へぇ、すげぇ……』などとひそひそ話し出した。

 『31(サンイチ)の双子』。彼らに付いている、分かり易いレッテルだ。


「……見事に落ち着かねぇな」

「全くだ」

「お前よく座ってられんな、こんなトコに」

「まあな。こういう情報はココが一番手っ取り早いし」


 げんなりした顔つきの仁に対して、敬は気にも留めずさらりと返す。


「で、どう思う?」

「そろそろ来るんじゃねぇの。そんでどうなるかは別として」

「じゃあ任せたぞ」

「何でだ?仁だって気になってるクセに」

「いきなり俺とは無理だ、分かってるだろう。慣らし期間を入れなきゃ俺がアイツを殴り飛ばして1日で終わるぞ」

「勿体無いねぇ」

「だからお前に任せるって言ってんだ。丁度、明日から2週間ほど空けるしな」

「あ、楽しやがって!」

「その分、任務で消耗してくるさ。じゃあよろしくな、敬」


 それだけ言い捨て、仁は早々に食堂を出る。後ろ姿を見送りながら、敬はふっと笑った。


「相変わらず不器用なこった」


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(……また戻ってきちまった)


 意識を取り戻した統が最初に思ったのは、それだった。
 深呼吸を一つ。それから、二度と開くまいと思っていた目を開く。


「やっと起きたか」


 視界に、制服の上から白衣を羽織った人間が入って来た。


「何やら不服そうだな」

「……また死に損なった」


 本音が溢れる。しかし白衣の人物はそれを哀れむでも咎める風でもなかった。
 感情が入っていない……が、その無機質な会話が今の彼には気楽だった。


「さっさと殺せって、そこまで言ってやったのに」

「甘いな。それなら自分で刺せば良い、凶器はあった筈だ」

「……処分は?」

「そんなものは無い。今回のお前は被害者だ」


 統が押し黙った。それを見て白衣の人物は再び口を開く。


「先に伝えておく。お前の次の配属は31小隊になる」

「……サンイチ小隊?何だそれ」


 首を傾げる。聞いたことが無かった。


「行けば分かる。因みに統括は俺だ」

「え、あんた医者じゃないのか?」

「正確には医者上がり、だな」

「……名前は?」

「黄丹 漣、中尉だ。近い内にまた会おう」


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「……ということで、明日から薄鈍 統一等兵が31に配属される」


 あれから1週間。噂も収まり通常の日々が戻って来たところで、誠が敬に連絡してきた。


「やっぱり来たか」


 彼は敬と仁の上官にあたるが、元々は同期と言っても良い関係。普段は気楽に話せる。


「あれだけトラブルが続くと、どこも難色を示すからな」

「違い無ぇ。誠はもう会ったのか?」

「いや、俺はまだ」

「黄丹は」

「中尉は08の件があった直後に。前から手ぐすね引いて待ってたから、今回の件は渡りに船だった筈さ」

「どう使うつもりだ?」

「機体整備をやらせるとは聞いた。かなり手先が器用らしい」

「そっかー」


 敬の顔がほころんできた。相当嬉しいのだろう。


「本人はまだ療養棟?」

「ああ、1900に移動予定。お前の隣室」

「しばらく空いてたもんなー。荷物は?」

「言うほどの物は無い。身体もかなり回復してるし、手伝いは不要だろう」

「じゃあ、部屋の風通しでもしとくか」


 言うなり立ち上がる。その様子に誠は苦笑した。


「浮かれてるな」

「そりゃそうだろ。いくら特殊小隊ったって3人だけじゃ寂しいじゃねぇか。メンバーも固定だし」

「確かに」

「……誠」


 部屋を出る直前、敬は振り向き誠に尋ねる。


「ソイツには“これ”、つけて無ぇよな?」


 左肩を示す……“印”の事だ。


「大丈夫だ。彼は対象外」

「そうか」

「……馴染んでくれると良いな」

「全くだ。じゃあな」


 ひらひらと左手を振りながら立ち去る敬を、誠は複雑な面持ちで見送った。


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 夕方、唐突に療養棟からの退室を言い渡された統は、その足であてがわれた部屋へと向かった。

 指示されたのは、今までとは全く別の棟。これまで揉め事を起こした連中とかち合わないようにという有難い心遣いだろうか。


(どっちにしたって、また地獄さ)


 腹を括った筈なのに、部屋に近づくにつれて足取りが重くなる。今度はどんな連中と一緒にさせられるのか……気が滅入ってきた。


「っしゃ!」


 うだうだ考えても仕方ない。統は気合いを入れ直して歩を進めた。
 ……部屋の扉が開いている。


(早速かよ)


 中に、誰かが居る。扉が微かに揺れているところを見ると、窓も開いてるのだろう……統の瞳がギラリと暗く光った。

 ゆっくりと近づく。但し決して歩みは止めないように。
 ノブに手をかけると、一気に扉を開け放ち室内を睨み身構えた。


「ああ、早かったんだな。邪魔してるよ」


 しかしそこに居たのは、窓辺で雑巾を手にしている人間。


「え……?」


 夕日が差し込み、こちらを向いた顔がはっきりと見える……笑顔だった。
 風に揺れる髪が夕日を反射して、一瞬赤銅色に輝く。

 統のそれと同じ色に。


「な……何やってんだ、人の部屋で!」


 暫し茫然としていた統だったが、やがて我に返って言い返した。


「ああ、ごめん」

「そうじゃねえ!何やってんだって聞いてんだ!」


(……こりゃ、猫みてぇだな)


 のんびりと、敬はそんな事を思った。

 燃えるような色の髪は、人によっては確かに恐怖をあおるものなのかもしれない。だが彼にとって、それはあまりにも些細な事だった。
 それよりも剥き出しの警戒心を見せるその姿。必死で全身の毛を逆立てて威嚇する子猫のようだ。
 今、手を出したら確実に引っ掻かれるだろう。


(別にそれでも良いんだけどさ)


 取り敢えずはそのままの体勢で言葉を返す。


「ああ。この部屋、しばらく空いてたから手入れしとこうと思って。アンタが来る時間はもう少し後だって聞いてたからさ。わりぃな、驚かせて」

「……」


 統が黙る。暫くして攻撃の気配が消え、本来の彼の瞳の色が戻ってきた。
 ルビーのような瞳。その奥に見え隠れする光が本当の彼なのだろう。それは……。


「自己紹介がまだだったな。蘇芳 敬。第31特殊小隊所属。よろしく」


 そこで右手を差し出そうとして雑巾を持っていた事を思い出し、慌てて腰の辺りで手を拭ってから改めて握手を求めた。


「あ、俺……薄鈍 統」


 怪訝な顔。警戒は解かないまま。それでも彼は窓際までやって来て敬の握手に応じた。髪が夕日の光を弾き、一瞬で金・銀・オレンジと多彩に輝く。


(うん、綺麗だな)


 太陽と仲良しの色だと、敬は思った。だが当の本人はその事に気付きもしないだろう。

 一方の統は、握手をしたままの状態で彼を無遠慮に眺めていた。


(変な奴……ひょっとして、こいつ馬鹿じゃねーの?)


 15歳まで入っていた施設でも親切な人は居るには居たが、どこか遠巻きの雰囲気は否めなかった。なのに、この目の前の人物ときたらとにかく最初から笑顔でグイグイ来る。
 しかも”特殊”小隊と言った。自分の配属先はここで合っているのだろうか。


「ああ。来るって聞いてたから間違い無いぜ。今日から俺たちゃ仲間だ」

「……あんたアタマのネジ緩んでるんじゃねーのか?」

「何で」

「さっきからニヤニヤニヤニヤ笑いっぱなしでよ」

「そりゃ嬉しいからな。久々の新入りなんだぜ!これでやっと4人だ」

「……4人?」


 統は目を剥いた。いくら何でも少なすぎる。


「何でそんな少ねーんだ」

「まあ、出来て日が浅いし。また追々説明するさ」

「……て」

「え?」

「手!!いい加減放せって!!!」

「あ、わりぃ」


 まだ笑顔のその頬に、今日最後の光の矢が走って消えた。


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 部屋が片付けば、統は『まずは歓迎会だ』と隣の部屋に連れて行かれた。言われるままに椅子に座ると、どこからともなく酒が出てくる。


「何でそんなモンがあるんだ」

「企業秘密。メシは?」

「まだ」

「じゃあ取ってくる。先に適当にやっててくれよ」

「いや、俺も……」

「いーからいーから。主賓は働かねぇモンだ」


 すぐ戻ると言い残し、敬はさっさと部屋を出て行ってしまった。
 ぽつんと部屋に残され、統としては落ち着かないこと甚だしい。


(警戒心ってのが無いのか?あいつは)


 する事が無くなって、何となく辺りを見回す。持ち物の少なさは自分と良い勝負だなと思った。
 ……と、小さめのライティングデスクに目が行った。写真立てがある。


(ふーん。やっぱカノジョとかの写真だったりして)


 興味が湧いた。近づいて眺めてみる……写っていたのは、敬と彼にそっくりな人物だった。これはもしかしたら……。


「双子?」

「そう。そっちは仁って言うんだ」

「そっか、じゃあ仁のほうは……」

「今は任務に出てる」

「生きてんのか!」


 形見の写真と言う訳ではないらしい。


「そうだけど?」

「あんたは何でココに居るんだ」

「だってアイツは単独任務だし」

「単独?何してんだよ」

「偵察。たまにドンパチやってるかも」

「『かも』って何だそれ?!」

「追々話すから。とりあえず乾杯!」

「おい」


 彼のペースが全く掴めず、統は困惑するばかり。だが敬は心底嬉しそうに良く食べ良く喋り良く飲んだ。


(……ザルだな、こいつ)


 とうとう何もかもが馬鹿らしくなって、統も考えるのを止めた。とはいえ、自分の所属する隊の事くらいは聞いておくべきだろう。


「で、第31特殊小隊ってのが正式な名前なのか?」

「ああ。普段は31で通じる。一応、情報部かな。やる事は色々」

「ちっとも分かんねー」

「だよな。ま、31自体がまだ1年そこそこだし、やっと形が出来てきたとこ。俺は近頃、誠っていうもう一人のヤツと組む事が多い。イメージ的に、仁が上からの偵察で俺たちは下からの潜り込み」

「スパイって事か?」

「そこまで凄かねぇけど」

「……やっぱ分かんねー」

「追々で良いさ」

「メンバーはまだ増えるんだよな?」


 そこで一瞬の間が空き、何故か統の背筋が冷えた。
 だが敬は笑顔のまま答える。


「いや、多分なかなか増えねぇよ。ソコが特殊部隊だよな」

「何で?」

「実は俺たち3人とも、それぞれの得意分野が偏り過ぎて普通の隊じゃ逆に使えねぇらしい。
 足並みが揃わねぇんだよな。仁ならフライト技術。入隊して半年で軍のトップ5に入るって言われるようになったけど、クセがあり過ぎて編隊飛行が無理。で、単独任務が多いんだ。
 誠は心理系。なまじ目に見えない分野だから、近くに居てほしくねぇってトコだな。分かるか?」

「何となくだけど。で、あんたのは」

「……うん、またその内にな」

「何だよ勿体ぶりやがって」

「一つぐらい後の楽しみにしとけ。ほら、食えよ」


 言って敬は笑う……その時は何となく、そのままで話は終わった。


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「顔合わせがあるってさ」


 翌朝は敬が統を呼びに来て始まった。向かった先は、療養棟。


「何でこっちに?」

「黄丹中尉の部屋がある」

「……あ」


 意識を取り戻した時を思い出した。


「医者が上官って、本当なのか?」

「ああ。そんなトコも特殊だよな」


 廊下の突き当たり近くまで歩き、左に曲がれば目的の場所。
 扉の前に立っている人物が2人に気づいた。


「よう」

「おはよう、敬。彼が?」

「そう、統だ。カワイイだろ」

「ちょっ、何だよそれ!」

「良いじゃねぇか。彼が桑染 誠。准尉だ」


 紹介を受け、誠が統に握手を求めてきた。


「初めまして。これからよろしく」


 准尉なら敬礼だろと思う間も無く、敬が『ほら、握手』と促した。


「薄鈍 統です……よろしく」


 挨拶を返され、誠も少しだけ笑みを浮かべる……敬よりは冷たい笑顔だと思った。こちらに真意を掴ませない。


「で、飲んだのか?夕べ」

「歓迎会さ」

「それは良いが……酒臭いぞ」

「気のせいだろ」

「おい!」


 慌てる誠を尻目に、敬はさっさと扉をノックした。
 その瞬間、空気が変わる。


「蘇芳 敬 軍曹、薄鈍 統 一等兵、入ります」

「入れ」


 直ぐに扉の向こうから返事があり、敬が統を促す。その豹変ぶりに呆気に取られる彼の顔を見て、敬は一瞬だけ口の端でくくっと笑った。


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 黄丹への挨拶を済ませたところで、統に今後の予定が言い渡される。仁が戻り次第、彼の指導の下で飛行訓練に入れとのことだった。


「シミュレーションまでは済んでいるんだろう?」

「はい」

「なら、彼が戻り次第3日で仕上げろ。それまでは機体整備のレクチャーと実践。それと銃の扱いに体術だな」

「げ」「はい」


 思わず呻く統の声を、敬のそれがかき消した。

 黄丹からは10分程で解放され、そのまま3人でシミュレータのある部屋に向かった。誠がシミュレーターで理解度をチェックすると言う。


「で、スケジュールどうする?誠」

「仁の事だからまた2・3日は早く戻ってくるだろう。今日も含めて3日半あるとして……」 


 すっかり普通の調子に戻って会話を進める2人に、統が目をぱちくりさせる。


「どうした?統」

「いや、そんなにコロコロ雰囲気変えれるモンなのか?普通」

「お、変えれてるか?俺」

「だってさっきはめちゃめちゃ軍人ぽかった」

「良かった!ほら聞いたか誠、俺だってやりゃあ出来るんだ」

「一応軍人だからな。ついでに酒臭さも消せ」


 あはは、と敬が笑った。


「処世術さ。ココじゃそれくらいはやっとかねぇとな」


 もっともらしく統にアドバイスしてニヤリとする。誠もそれを咎める様子は無い。


「メンバーの間では気楽にやっておいたら良い。中尉の前でそれなりにしておけば大丈夫だ」

(良いのかよ、そんなんで……)


 聞いた統のほうが却って不安になったものだ。


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 シミュレーションは夕方に終わり、誠からは“OK”の判断が出た。
 報告のために部屋を出る彼を見送り、2人は一足先に食堂に向かう……と、向こうから見覚えのある顔がやって来た。

 統の体に緊張が走る。


(あいつら……14中隊の)

「スルーしとけ」


 彼の変化に気付いた敬が耳打ちする。しかし相手は強引に2人の行く手を遮った。


「へぇ、とうとう31に配属になったか」

「似合ってるぜ、統ちゃんよぉ」

「31にいてくれりゃ安心だぜ。上層部直々の監視付きだし、な?」

「てめぇら……」


 つい気色ばむ統を制し、敬は無言でその場から去ろうとする。


「何だ、先輩はダンマリか」

「図星じゃ何も言えねえだろ」

「証拠もあるしな?……たとえば、左肩の印とか」


 その一言を聞いた瞬間、平静を保っていた敬の体が小さく震えた。
 ……それは、無意識の肯定。


(……まさか?)

「何がどうしたって?」


 不意に、後ろから声がした。途端に14の面々が一歩引く。


「あ、桑染……准尉」

「31に限らない。印などいくらでも付けてやる。希望者は誰だ?」

「いえ……し、失礼しますっ!!」


 連中は形だけの最敬礼をすると一目散に逃げていった。静かになったところで、敬が小さく息をつく。


「サンキュ、誠。面倒臭ぇんだよな、ああいう手合いは」

「ほとぼりも冷めてきた頃だし、向こうも気が大きくなってるんだろう」

「……んだよ」


 2人の会話に、統の震える声が割って入った。


「統……」

「“左肩”って、どういう事だよ」


 声が掠れる。


「何でだよ……ウソだろ?」


 沈黙が3人を覆った。なおも真偽を問い質そうとする統の口からは、しかし引き攣れたような空気の摩擦音しか出て来ない。
 問われた2人は何も言葉を継がず……その2対の瞳は、感情を全く読み取らせないガラス玉のように統には思えた。

 左肩の印。
 その意味を知らない者はない。各国で共通の、暗黙の了解。

 ……その人物が国際手配犯だと言う証。


>>>Part 0-2 (2/3)



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