(税務と法務)従業員不正(横領など)が事後的に発覚した場合における重加算税について

0 あらまし 

従業員が横領などをしていたのに気がつかず、税務調査などで発覚することがあるかと思います。その際の重加算税の取り扱いについて検討をしてみたいと思います。

1 要件事実

(1)過少申告加算税の規定に該当すること(要件①)

*従業員不正が事後的に発覚する場合、通常は、無申告や不納付といった他の重加算税の累計には当たらない場合が多いと思います。ですので、ここでは過少申告の重加算税類型を取り上げます。

(2)納税者が事実の全部又は一部を仮装又は隠蔽(要件②)

(3)納税者が仮装又は隠蔽に基づき申告書を提出(要件③)


2 従業員不正(横領など)における論点

重加算税の論点は他にも多数あるのですが、従業員がこっそり横領などを行っており、税務調査など申告書の提出後に横領などの従業員の不正が発覚したような場合には、大きく以下の2点が争点となることが多いかと思います。

要件①との関係で:横領などによって発生した損害や損害賠償請求権をいつ計上するか

要件②との関係で:従業員の仮装又は隠蔽行為を納税者の仮装又は隠蔽行為と言えるか

そこで、以下では、各論点について見ていきたいと思います。

3 横領などによって発生した損害や損害賠償請求権をいつ計上するか

(1)費用の否認と不正行為による損失計上

まず、架空の外注費を計上しておいて、当該費用を支払わず、自分の銀行口座に振り込んで、横領していたような事案。この場合には、まず、架空外注費は、費用性が認められず(法人税法22条3項各号に該当せず)、当初費用としていたものは否認される。他方で、同時に当該不正行為による損失も計上していないので、否認された額と同額の損金形上が認められる(いつ計上されるかも議論の余地あり)。結果として、費用否認による所得増加と、損失計上による所得減少により、これによる所得インパクトは生じない。そのため、費用の否認と損失計上によっては、過少申告とはならない(=要件①は充足しない)。理屈としては、費用の否認と不正行為による損害の発生は1個の犯罪行為によって発生したからということになろうか(『租税法判例実務解説』50頁参照)。

(2)損害賠償請求権の計上時期

そこで問題となるのが損害賠償請求権の計上時期の問題です。みなさんご存知の通り、ここでは、同時両建説(不正行為による損失と)、異時両建説(東京高判昭和54年10月30日)があり、判例は同時両建説に立っていると言われている。両説は、公正処理基準(法人税法22条4項)による、収益の計上時期が、権利確定主義によるべきとされているところ、この権利確定の判断に、回収可能性の判断を織り込むか否かにより別れることになる。

 この事例によるリーディングケース(東京高裁平成21年2月18日判決)では、この点に関して「経済的観点からの実現(履行)可能性の問題は、下記の貸し倒損失の問題として捉えていくのが相当である」と述べて、権利確定の判断に回収可能性の判断は織り込まない(=同時両建説)という立場を取っている。なお、法人税基本通達2−1−43でも、原則として「支払いを受けることが確定した日」、例外的に「実際に支払いを受けた日」を益金とすべき時点として、原則的には、権利確定主義によるべきことを明記している。本判決でも、「通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないと言えるような客観的な状況にあったか」という基準で権利確定しているかを判断すべきとしている。


4 従業員の仮装又は隠蔽行為を納税者の仮装又は隠蔽行為と言えるか

 重加算税の条文では、仮装隠蔽行為が「納税者」によって行われる事が要求されている。そこで、代表取締役などの、包括的な代理権による行為が全て会社=納税者の行為となる場合はさておき、包括的な代理権が無いような従業員が単独で不正を行った場合でも「納税者」の要件が充足されるかという点がここでの問題です。

(1)リーディングケース

まず、この点に関するリーディングケースである最高裁平成18年4月20日判決では、「納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視する事ができるときには」重加算税の要件を充足(=納税者要件充足)すると判示している。


(2)判断要素

では、どういう場合に「納税者本人の行為と同視」できるか、という点は、結論としてはケースバイケースだが、これまでの判例の蓄積を「税大ジャーナル 17 2011.10 法人に対する重加算税の賦課について ー従業員の不正行為に起因する場合を中心にー」が端的にまとめてくれている。そこでは、①納税者と第三者との関係(法人における稼働状況、業務内容、業務を監督される立場だったか、裁量があったか、内部統制システムの状況、金額の多寡や不正行為の回数などから、法人が当該不正行為について負うべき注意義務の程度とその履行の程度を判断)、②第三者の行為を法人が認識していた又はし得たか、③従業員への対処などを総合判断の要素として挙げている。


5 法務への橋渡し

こうみてみると、従業員に不正をやられると、知らなかったではすまない。お金は使われるわ、重加算税で支払い生じるはでいい事がありません。事の性質として、事後的に問題となるケースが大半であることからすれば、予防法務としては、不正経理周りの内部統制に力を入れるしかないように思われます。そこでは、一連の判例があるので、そこでどういう要素を重くみられているか見て、内部統制の具体的なシステムに落としていくといいかなと思うのですが如何でしょうか?






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