元・バックパッカーの聖地にて

道端に詰まれた腐臭を放つゴミの山、大勢の物乞いやホームレス、小汚ないが人慣れしてる野良犬ども、嫌な臭いを放つドブ川……。
これが魔都バンコクの姿である。
ネットやガイドブックで華やかな女子旅特集が組まれてる割には、ワイルドな印象を受ける街だ。
特に横断歩道を渡る際は命懸けで、歩行者信号が青でも車両が高速でバンバン通過していくので、隙を見て渡らなければならない。

ぶらぶらと街中を散歩していて気付いたことがある。

一つは、セブンイレブンがやたら多い。

もう一つは、トイレがない。


バンコクでのセブンは非常に力があり、そこら中に乱立している。5分に一軒の頻度で別の店舗を発見するほどだ。車道を挟んで向こう側にまたセブン、は珍しい光景じゃない。

セブン以外のコンビニやその他の店では1000バーツ札を出すとお釣りがないよと受け取り拒否されるのだが、セブンだと普通にお釣りを出してくれる。
なので旅行者は1000バーツ札を崩すために、セブンで数バーツ程度の水を一本だけ買うという迷惑行為をよくはたらく。私もよく利用した。

日本のセブンは商品が定価売りなのでスーパーと比べるとボってる感あるが、タイではそんなことない。
タイでも定価売りには違いないものの、スーパーと価格が同じなので割高感はない(スーパーはまとめ買いするとディスカウントされるが)。
お弁当類も安く、和食弁当が150円程度で買えるのでタイ飯に飽きても手軽に和食を食べられる。

そんな素敵なタイのセブンだが、残念なことにトイレがない。
それどころか、街中は滅多にトイレを見かけない。
万が一もよおしたら、一気に危機的状況に陥ってしまう。

大抵の商業施設内にはトイレがあるのだが、閉鎖されてる所も多い。
それに有料の場合があり、小銭を要求される。旅行者はあまり硬貨を手に入れる機会がないので下手すれば有料トイレを見つけても使用できないなんてことも。

最悪、トイレ料徴収係のババアに札を渡せばいいのだが、硬貨しか受け付けない自動ゲートが設置されてた場合は詰む。

バスの運賃は人力で集めるのにトイレ料金が機械化石だなんて発展させるとこ間違ってないか?


日本人の感覚からすればトイレが有料なのは糞うざいが、あまりのトイレ不足に発見した時は「有料でも存在していてくれてありがとう」という気持ちになる。

街の中心部から外れると商業施設自体あまり見かけなくなるし、立ちションできるような場所もなかなか無い。私はトイレが近いタイプで、何度か破滅しそうになった。


バンコク2日目の今日は、夕方にカオサンへ向かう以外何も予定がない。
今夜泊まる宿をネットで予約し、適当に街歩きして時間を潰した。

更に気づいたことがあるが、タイ人は暇があるといつもスマホをぼちぼちしている。
日本人も似たようなもん?いや、奴らは仕事中でも構わず、ちょっと手が空いたらスマホをぼちぼちしやがる。
セブンイレブンでも店員が常にスマホで遊んでいる。

仕事中にスマホいじってんじゃねえ!とキレる気はないが、みんなが常に下を向いている光景はちょっと思うものがある。
そんなに熱中できるコンテンツがあるのだろうか。

画像5

ブラブラと街を徘徊していると、スクンビット地区を象徴するデパート、ターミナル21に到着した。

スクンビットはバンコクの都市部でも綺麗な場所で、ゴミの山や野良犬、屋台群は見かけない。軍事政権に移行する以前のスクンビット・ソイは屋台でひしめき合っていたらしいので、観光客としては昔の方が楽しめたかもしれない。

ターミナル21はお買い物しながら世界一周がコンセプトのデパートで、各階は世界各国がモチーフの造りとなっている。

画像6

日本をイメージしたフロアもある。トイレの内装まで凝っており、別の階に移動すると必ずトイレまで確認したくなる。

バンコク旅行を紹介する際、必ず紹介される面白スポットだが、高級ファッション系のショップばかりで、ファッション無関心勢の私にはつまらない所だった。

「へい、マイフレンド」ターミナル21を出ると、謎の長身アラブ人の男に声をかけられた。

「時計買ってけ。2500バーツ(9000円)だ」
アラブ人は偽のブランド時計をちらつかせた。これがまたしつこい押し売りっぷり。
「時計か…お土産にいいかもな。ディスカウントプリーズ」
「2000バーツならどうだ」
「ノー。ディスカウントプリーズ」
「じゃあ1500バーツだ、友達価格だぜ、マイフレンド」
値段はどんどん下がっていき、500バーツになった。
「ノー、ノー、ノー………高過ぎるよ」
「マジで言ってんのか?2500バーツが500になったんだぞ!?」

アラブ人は電卓を使い、元値との桁の違いを示したが、私は譲らない。
一般の観光客はこんな押し売り華麗にスルーするだろうが、私なら安値なら買っていいと思っていた。ターミナル21でちょっとした小物土産に大金払うくらいなら、こういうアイテムの方が話のネタになるし安上がりだと思ったからだ。


「ほら、マイフレンド。腕に巻いてみろよ、500バーツの価値はあるぜ」
と、アラブ人が無理やり腕に巻いてくる。

拒否しようとして、うっかり時計を地面に落としてしまった。
これは、弁償を求められるパターンか!?と思いきや……

「マイフレンド、こっちの時計ならどうだ?ほら、こっちは丈夫だぜ。メイド・イン・ベトナムだ」
アラブ人は別の時計を取り出し、釘のような物でガンガン時計を叩いて、頑丈さとベトナム製をアピールしてきた。ベトナム製の信頼度はわからない。
時計を痛め付けてる様子が面白く、500バーツで買ってもいいかなという気になってきた。
「わかった、300なら買うよ」
「素晴らしい判断だ、マイフレンド。持っていけよ」

だめ押しで値切りしてみると、あっさり了承してくれた。
私は釘で打ちすえられた偽のブランド時計を腕に巻き、アラブ人と握手をして別れた。
良いカモにされてしまったのだろうか?だが1000円くらいなら痛くもかゆくもない。

画像7

そんなことをしているうちに、昼3時を迎えた。
そろそろカオサンに向かおうかと、初MRT(地下鉄)に挑戦。専用のコインが切符になる、日本とは別仕様。

車内はクーラーでガン冷えなので快適。タイ人は「冷たいほど良い」という考え方をしており、飲み物は大量の氷でガン冷え、屋内もクーラーでガン冷えされている。当然列車もガン冷えである。

画像2

終点サナームチャイ駅を出て、徒歩でカオサンへ移動。駅からカオサンまでは何もないが、街の中心部と違って穏やかでのんびりした時間が流れている。散歩するのに良いエリアだ。

画像3

バンコクでは緑ある所では必ずでっかいリスが大繁殖している。公園で糞うるさい鳴き声が聞こえてきたらでっかいリスどもだ。

そして…ついに到着。


画像4

バックパッカーの聖地と呼ばれた伝説の安宿街、カオサン通り。貧乏旅行初心者はまずここを目指すという。
しかし私には単なるクート島への中継地点でしかなかった。島へ向かうバスがここから出ているのだ。

カオサンの実態は陽キャパリピ向けの観光地で、貧乏なバックパッカーの憩いの地だったのは遠い昔。
安宿街とはいうがあまり宿は多くない。夜中まで陽キャパリピどもによる騒音が酷いので実際に宿泊したらかなりやかましく感じるだろう。

それに物価が高めで、適当に軽いおやつを買い食いしながら端まで歩いただけで1000円は消費する。ケチって安いモノを選んでもこれだ。観光地でお財布が緩んでしまうタイプの人は一晩で万は使ってしまうと思われる。バックパッカーの聖地と呼ばれていた頃に訪れたかった…。

ただ、色んな国籍、人種の人と交流できるのは新鮮で楽しい。様々な国からやってきた人との一期一会は誰にも良い思い出になるに違いない。

そんなカオサンが本領発揮するのが夜9時以降。食い物系の屋台は引っ込み、路上は酒売りと虫売りだらけになる。客層にはウェイ系が加わって、私のような陰キャには地獄のような場所と化す。

虫売りについて説明すると、食用っぽい昆虫がそこら中で売られており、物珍しさから撮影しようとするとお金を要求される。奴らは撮影料で稼いでるのであって、虫を食べてもらいたいから売り歩いてる訳ではない。
同業ライバルの虫売りに対抗して、食用ではないと思わしき珍しい虫まで取り揃えている商人もいる。そして陽キャパリピウェイ系な奴らが撮影料を払ってインスタにうpし、調子こいた一部の奴らが食用ではない虫を買って生で食うのだ。
いい金になるのか夜は虫売りの数が本当に多くなるので、カオサンを訪れるなら18~20時頃をオススメしておく。まあ、今ここはコロナのせいで死んでるけども。南無。

ざっくりとカオサンを楽しんだ後、昼に予約した宿へ向かった。

画像5

宿は一泊400バーツ(1400円くらい)の安ホテルで、個室温水シャワー、テレビ、冷蔵庫、クーラー、机、鏡がついている。設備は申し分ない。カオサンから徒歩数分の立地。

日本の一般的なビジネスホテルよりも広く、倍の金額払ってもまだ安いといえるコスパ最強の宿だ。

荷物を降ろし、ベッドに寝転がる。明日は4時起き。バスは早朝に出るのだ。
ちゃっちゃと眠ろうとしたが、今日の私は散歩と移動だけで何も観光していない。時計を買ったくらいだ。
カオサンでもおやつを食べただけ。

何か思い出を作らねばと思い、再びカオサンへと向かった。


カオサンでは安くマッサージを受けられる店が多い。綺麗なねーちゃんの手で癒されようと思った。

「兄さん、マッサージどうよ」とでかい値段表をぶらさげた客引きのお嬢さんに声をかけられる。ロリ系のすこぶる可愛いお嬢さんである。

「お嬢さんがマッサージしてくれるんかい?」
「ちゃうよ」
「じゃあ、ビューティーマッサーはいる?」
「よりどりみどりよ!今ならディスカウントして100バーツよ!」

交渉成立、私はマッサージ屋に連れていかれた。
中にはねーちゃんが3人と、ババアが1人。
選ぶ暇もなく「来いや」と1人のねーちゃんに誘われた。まあ、一番好みだったから良し。

私は30分間のフットマッサージを頼んだ。安いし、今日はたっぷり歩いたので足がパンパンだ。

「ぺニス!」と短パンを投げつけられ、それ着替えると、フットマッサージが始まった。非力でくすぐったく、ほぼ撫でるだけの糞みたいなマッサージであった。
しかし、だるんだるんのシャツを着たねーちゃんの胸の谷間ががっつり拝めたのでまったく損はない。

谷間をガン見していると、「日本人かい?」とババアから声をかけられる。流暢な日本語だ。
「大人しいね、お兄さん」
「今日は歩きっぱなしで疲れたからね」
「どこ行ってきたの?」
とまったく無意味な会話でババアにおっぱいガン見を邪魔され、あっという間に30分が過ぎた。

ねーちゃんに40バーツのチップを恵んで店を後にし、カオサンの商店をブラブラする。明日はいよいよクート島だが、日本にサンダルを忘れてしまったので、ここで用意しておきたかった。
クート島はまだ未開発感溢れる場所と聞く。現地で都合よくサンダルが手に入らない可能性がある。

とある雑貨屋のおっさんにサンダルの値段を聞くと、800バーツと言われた。日本円だと2800円以上だ。ボッタにも程がある。
おそらく値段交渉前提なのだろうが、半額になっても1400円。南の島で数日履ければ良いので、そんなに良い物は求めていない。ていうか売られてたのは別に良いサンダルじゃなかった。

帰ろうとすると、おっさんが雛壇に座ったねーちゃんたちの写真を見せてきた。
すると「オンナ、イルヨ!」と片言の日本語で私の腕を掴み、店の奥に引きずり込もうとしてきた。

おっさんはポン引きも兼ねていたのだ。カオサンのような観光地でポン引きについて行くと確実にボられる。サンダルでさえボッてるのに女と安く遊べる訳がない。

びっくりして思わず「アイアムゲイ!ホモセクシャル!!」と怒鳴って逃走した。

他の店も巡ってみたが、どこもサンダルはボッタ値で、購入を諦めた。裸足でビーチを歩けばいい。

コンビニで適当におやつを買って宿に戻った。明朝はいよいよクート島に出発。私は3時間後にアラームをセットし、眠りについた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?