きれいなこどくに しんでいく
今日隕石が降ってくるそうだ。それも結構大きめの奴。息も絶え絶えのニュースキャスターを尻目に、自分は立ち食いチェーン店の天そばをかっ喰らっていた。
そりゃまぁ、急だなぁ、とは思ったよ。朝に突然「お母さん!今日遠足があるんだ!」って告げてくる小学生くらい急だな、とか思った。そんな急に準備出来ないわ‼︎ってね。
でも、まぁ、私は…まぁ、うん。『そうだよね』って思った。
煮え切らないかもだけど、いつか人間は絶滅する。こんな突然に、ブチッと途切れることになるとは思わなかったけど。でも、まぁ、そうだよね、と。
店から外に出た私は、今はまだ蟻ほどの大きさしか無い天災が空からゲンコツを喰らわせるのを、目を凝らしてよーく見つめた。
「人間が滅びなければならないほど何を悪い事をしたんでしょうか?」って私の中の天使が慈愛に満ちた顔をしてたけど、いや、しとるわ。めっちゃしとる。そりゃお母さんもゲンコツ落とすわ。
「何でェ‼︎アンタァ‼︎いけんことしてェッ‼︎」
がつーん、ぼかーん。
「その巨大ゲンコツにはドリフの『盆周り』がお似合いだよねぇ」って友人に話したら、「焦ったりしないのか?」って呆れ顔で言われた。
「何で?」私には私が焦る理由が分からなかった。
「やり残した事とか、もっと生きたい‼︎とかさ、無いの?」
「私は24歳だけど、もう十分生きたよ。積極的に死にたいって訳でも無いけど…」
「親しい人が死んで悲しいとか」
「私は特に。というかもう家族も居ないし。死ぬのって自然な事だから。『悲しんで欲しい』って他の人の言葉は知らないけど。」
正直、ソレ、何回聞くの?って思った。
けれど確かに、やり残したことはあるかも知れない。私は聞き飽きた問答の中に面白さを探し始めた。
そういえば、一つ思い当たる望みがあった。
「そうだ、折角死神さんが向こうから来てくれるんなら、私はそれを抱きしめたい。思いっきり、ぎゅッ、って。彼だってきっと、死んだ人間が大量に流れ込んできて、仕事で疲れてるだろうから。」
そうだ。もし、私が最後の魂だったとしたら、死神さんを思いっきり甘やかそう。私なら何でもするよって、何でも出来る神さまにそう言って、それで2人で一緒に星になって還ろう。
「アンタも大概、マイペースでロマンチストだよねぇ」なんて友人には言われちゃったけど、それなら私と一緒にこうして話をしてる友人も、マイペースだと思うよ?……多分。
友人との会話の中で時間が経つにつれて、随分と隕石は地球に近づいていた。目線を軽く上げるだけで空の大半を占める、荒々しく力強い岩のこげちゃいろ。
ふと私は「あ、星の表面ってこんなにカッコいいんだ」って思った。
地球の海とか緑の美しさばかりが取り沙汰されるけど、ゲンコツ君、君も十分かっこいいじゃん、って思った。
けれど、それなのに、誰もゲンコツ君を見ないんだもん。怖さしか見てないんだもん。友人の眼も、怖さしか見ていない。
『結局最期まで、誰かが誰かを理解する事は無かったんだな。』
そういう考えがよぎった時、やっぱり私は人間が嫌いなんだなって思い込みが、確固たるものになった。
閃光と熱が、そんな私達を綺麗にする。
破滅から数刻、私は暗闇を漂っていた。静かな孤独だった。
やがて、魂だけになった私を、死神さんが迎えに来た。
スゥー、と死神さんの目の前に来て、「よろしくお願いします。」と素直に、無い頭を下げる私。
死神さんは速やかに立派な鎌を優しく私に突き立てる。魂が微光を放ちはじめた。
死神さんに、お疲れのハグをしたかったけど、手が無いんじゃ仕方ないかぁ。そんなつまらない事を思いながら、私の魂は程なく解けていった。
そうしてソラから、命が消えた。
結局誰もが、孤独のままで。
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