模型とデザインナイフ
模型を作る上で欠かせない道具の一つに、デザインナイフがある。
模型を作るときに、まず用意するべき道具としてニッパーに次いで必ず挙げられるものだが、私がプラモデルを始める時に参考にしたサイトなどでは「とりあえず必要なので買いましょう」という程度の説明しかなく、何に使うものなのかわからぬまま、とりあえずで購入した覚えがある。
実際、デザインナイフを何に使っているのかと聞かれると答えるのは難しい。何にでも使っているからである。
買ってきたキットのセロテープを切って箱を開けるところから始まり、ゲート処理、カンナがけ、デカール台紙のカット、プラ板のカット、刃の裏側を使ってスジボリ、盛りつけたパテを削る…。デザインナイフの用途は多岐にわたる。それぞれの工程には、それ専用の道具も用意されていたりもする。しかし、デザインナイフは使い方次第でそれら全てを賄うことのできる万能ツールだ。モデラーの腕そのものと言ってもいい。
このように、模型製作においては欠かすことのできないデザインナイフだが、プラモデル以外で触ることは、まったくと言っていいほどない。
日常的にものを切りたい時には、ハサミや、より扱いの簡単なカッターナイフで事は足りてしまう。
中学生の美術の授業で切り絵の課題を出された時に一度だけ使った記憶があるが、使ったのはそれぐらいである。
その美術の時間に、一度不注意で刃を折ってしまった事がある。
学校の備品を壊したのだから怒られるかと思ったが、先生に報告すると、怪我はなかったかと聞かれただけで、黙って替刃を用意してくれたのを覚えている。
デザインナイフの刃は消耗品であるという事をその時に知った。
刃を新しくした時の、最初の切れ味は格別である。
例えば、ニッパーで切りとったゲート跡を削ぐような作業では、あたかもバターを切るように優しく刃を押し当てるだけでいい。
もしくは、飛行機のキャノピーに貼り付けたマスキングテープを窓枠の形に切り抜く作業の時には、私は必ず刃を新しくする。
窓枠のカドに合わせてゆっくりと刃を滑らせると、ペリペリと小さな音を立ててマスキングテープが裂けていく。
キャノピーにキズをつけないようにそっと撫でても、しっかりマスキングテープを切り分ける事ができるのは、あたらしい刃の切れ味があるからこそである。
デザインナイフについての記憶を思い返すと、身体感覚と密接に関わっていることに気付く。
やはり、モデラーの腕そのものなのだなと思う。
例えば、まっすぐな線で切りたいときには、押すよりも引いた方が確実だ。
キット付属のマスキングシートを切り抜く時などがそうだ。
少しの線だからと、横着して押しながら切ると、必ずと言っていいほど線が歪む。
一度マスキングシートを回転させて、引きながら切れるようにするとまっすぐに切り抜く事ができる。
例えば、C面と言われる斜めの面をカンナがけで削るときなどもそうだ。
私は左利きなので、パーツを支持するのは右手だ。
その右手に、ナイフを持つ左手の薬指を置いたうえで、左右の手首をくっつける。
そうすると、歪みなくパーツと平行にナイフを動かすことができる。
デザインナイフについて思い起こされるのは、こうした身体感覚についてが多い。
そうした身体感覚の一つとして、最後に触れておきたいのが、指を切る、ということである。
それは、替え時を逃して、切れ味の落ちた刃をいつまでも使っていたときなどに起きる。
切れ味が落ちるから不要な力が入る、そして指を切る。
指先から血がでてしまって、痛くはないが、パーツが血で汚れるから、一度ティッシュで押さえて血が止まるのを待つ。
大人になって、指を切ってしまうことはあまりない。
あったとしても不注意とか、偶然によってだろう。
しかし、模型をつくっていて、デザインナイフで指を切るときはそうではない。
先に書いたような、小さな横着が指を切るという結果に結びつく。
指を切るにも理由があって、自分のコントロールの範疇だ。
自己責任で指を切る。
そんなことができるのも、模型趣味だけなのかもしれない。
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