一打生蚝、一瓶啤酒
串焼き屋の床を鼠が慎ましやかに歩いている。
「よくもまあ、こんな店に食いに行くよな」
「この鼠はもうここの服務員みたいなもんだからな。食い物に飛びかかったりはしないし、鳴き声も遠慮がちにチュウ。時々うろついて、たまに客と顔を見合わせてそのまま帰っちまう。おう、姐姐、給米饭!」
店のおばさんがもうもうと湯気の上がるトレーを運んできた。中には20枚ほどの牡蠣が並べられ、どれも刻んだネギにニンニク、少量の唐辛子が入ったタレをかけられている。
「おいおい牡蠣かよ、こないだ珠江の貝類に基準値以上の重金属が検出されたってニュースになったばかりだろうが」
「旨いから誰も気にしちゃいないさ。それにお前、金属中毒になるまで長生きするつもりか?」
「なるほどそりゃ道理だ」
牡蠣を汁ごとかぶりつく。汽水に溜まりこんだ旨味が弾け、強いニンニクの風味と鍔競り合いを繰り広げる。味と香りが最高に高まった瞬間、珠江啤酒を流し込む。
(続く)
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