灰色の百合
腐った豚肉の臭いの立ち籠めた地下の酒場の片隅で、チンピラは震えていた。その有様たるや、上海された船員よりややましというところ、つまりは人屑であった。
男は野鶏らしき女に、時々安酒を流し込みながらぶつぶつと呟いている。
「……そうだよ、オレは兄貴達――ああ、魂安らかに――とあの貨物を襲いに行ったんだ。外灘の倉庫にあのボケナスの品が運び込まれるって聞いて、手槍片手に夜上海歌いながら駆け付けた」
「それで?」
「護衛はあっという間に片付いた。オレは『灰百合』と書かれた方の箱を開けるよう兄貴に言われた。金物の箱に触ると、えらく冷たくて――ブルったんだ。冷たさだけじゃない、嫌な予感がしたんだ」
「中身は?」
男はグイと酒を飲み干し、喘ぐように語りかける。
「一面の灰色だった、その後すぐに獣の食い残しみたいなどぎつい臭いがした。あれが百合に見えるのか?……ぎっちり隙間なく敷き詰められた塩漬けの脳みそ何十人分がよ」
(続く)