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月はなぜ欠けるのか?

前回書いた「ローレン・ジャクソンの選択」の執筆動機について書く。
どうしてあの原稿を書こうと思ったのか?

でもその前に、あの原稿を書いていて強く思ったことがあって、それはバスケットボール女子日本代表にも、2011年に流行語大賞を受賞した「なでしこジャパン」みたいなキャッチーな愛称が必要なんじゃないかってこと。
バスケ女子日本代表の愛称というと、メディアでは「AKATSUKI JAPAN 女子日本代表」と書くのが慣例みたいだけど、でもそれだったら、普通に「バスケットボール女子日本代表」と書いた方がよくない? なんなら字数増えてるし。日常会話でも、「昨日の AKATSUKI JAPAN 女子日本代表すごかったね!」とか絶対言わないでしょ。

私は「AKATSUKI JAPAN 女子日本代表」って何回も書くのはだるいから、前の原稿では勝手に略して「女子アカツキジャパン」って書いてたけど。(もちろんそんな略し方をしてるメディアはない)

もともと、JFA(日本サッカー協会)が「なでしこジャパン」という愛称を公募したきっかけは、オーストラリア女子サッカー代表「マチルダス」のように、“女子” を付けなくても女子代表だと分かる愛称があった方が良いという理由からだったらしいけど、バスケの女子代表にも女子オーストラリア代表の「オパールズ」みたいな愛称があったらいいのにって思った。(書くのも話すのも短くて楽だから)

7月7日にオープンした「AKATSUKI JAPAN 公式グッズオンラインストア」を見ればわかるけど、基本的に「女子」をつけずに、ただ「AKATSUKI JAPAN」と書く場合、男子代表のことを指すみたいだし。

というか、そもそも一つの名称が複数(3つも4つも)のチームを指すのだとしたら、それは名称として使えない。

ついでに、前回紹介した「She Hoops」について補足しておくと、このオンラインプラットフォームは無料とはいえそれを利用するためには登録が必要なんだけど、「She Hoops」の YouTube チャンネルでは普通にたくさんの動画が公開されていて、その中には、ローレン・ジャクソンが女子バスケットボール界の ”象徴icon” と対談するアイコン・シリーズもある。

現在までのラインナップは、

  1. スー・バード(5つの五輪金メダルを持つアメリカ代表のレジェンド)

  2. ミシェル・ティムズ(オーストラリア出身のWNBAオールスター)

  3. リズ・ミルズ(2021年、男子ケニア代表のヘッドコーチを務め、バスケットボールだけでなく主要スポーツの男子代表チームを率いる当時世界で唯一の女性となった)

  4. シェリル・スウープス(WNBAと契約した最初の選手であり、ナイキから女子選手史上初となるシグネチャーモデルが発売された)

  5. シルビア・ファウルズ(WNBAファイナルMVP2回、オールスター8回、歴代最多リバウンド記録を持つ)

  6. サンディ・ブロンデロ(オパールズ、およびニューヨーク・リバティのヘッドコーチ)

  7. カレン・ブライアント(ロサンゼルス・スパークスのGM)

  8. ベッキー・ハモン(現役引退後、サンアントニオ・スパーズで女性として初めてNBAのフルタイムのアシスタントコーチとなり、現在はラスベガス・エーシズのヘッドコーチ)

驚くべきことに、これが全部無料で見られる。
これは本当にすごいことで、4大会連続でオリンピックに出場し、WNBAで12年プレーしたローレンさんの人脈と自分たちの遺産レガシーを次世代に残すんだっていう強い意志があるから可能だったんだと思う。(向こうの人たちは、遺産が重要だ、遺産を残すんだって、いつもそればかり言ってる)

ローレンさんみたいな人はなかなかいない。日本だったら(競技は違うけど)、男性を含めアジア人として初のバロンドール受賞者となり、5年間アメリカのプロリーグでプレーした澤穂希くらいしか思いつかない。
澤さんもすごい。彼女の人脈や経てきた経験など、彼女が日本の女子サッカー界、ひいては日本の女子スポーツ界に残すであろう遺産レガシーの大きさを思うと目眩がしてくるくらい。

日本バスケットボール協会は澤さんを講師として招いて、彼女の遺産を ”盗む” べきだと思う。もちろんその前に、みんなで「なでしこジャパン」を応援して連帯を強めておいてからね。
アメリカでは、ステフィン・カリーも、クレイ・トンプソンも、シャキール・オニールも、ドーン・ステイリーも、キャンディス・パーカーも、サッカー女子アメリカ代表の史上初のワールドカップ3連覇(スリーピート)を応援してる。(クレイの言わされてる感はハンパないけど……)

アイコン・シリーズみたいな価値のあるコンテンツが知られていないのはもったいなさすぎるから、記念すべき第1回目、スーさんとローレンさんとの対談の一部をちょっとだけ抜粋してみる。

ジャクソン 昔、私たちが一緒にプレーしていた時は、あなたはとても内向的だったでしょ。あまり話さなかったし、自分から心を開くこともなかった。何が変わり、何が起き、どう成長して今日のようなリーダーになったの?

バード これはいろんな意味で重い答えに聞こえるかもしれないけど、実際、本当に重いのよね。社会が変化したのと同じように。
今では女子バスケにより多くの注目が集まり、より多くのマイクが向けられ、それはより大きなプラッフォトフォームになった。だから私たちは、給与の不平等とか機会の欠如、WNBAの成長の難しさなど、長年にわたって私たちの人生において普通に起きていたことについて話すことができるようになった。
私たち全員がこのリーグに来た初日からそれらの話を知っているけれど、ただ当時はそれについて話す方法がなかったの。とはいえ、あなたの言うとおり、確かに私はもっと静かで、もっと内向的だったわね。

何より、私たちの世代には、まさに私がいま説明したようなことがあったと思う。 それは時代の雰囲気のようなもの。 誰かが私に文句を言うなと言ったとか、誰かが私に静かにするように言ったということではなくて。 私は(プレーする)機会を与えられたことに感謝するべきだと思っていたの。 だから本当に長い間、私は「ねえ、みんな、私たちはプレーできるんだから、それに感謝するべきよ」って思ってた。 だから私たちは決して文句を言わなかった。もしかしたら陰で言っていたかもしれないけど、公の場で公然と言うことはなかった。

(中略)

アメリカではよく「黙ってドリブルしろ」という言葉が使われて、私と同年代の人たちはそれについてよく冗談を言ってるんだけど、私たちの時代は「黙ってドリブルしろ」の時代だった。そして私たちは文字通り、黙ってドリブルしてた。なぜなら、私たちはそこにいられるだけで幸せだったから……。

今思うのは、私が言えたことはたくさんあったのに、あなたが言えたことはたくさんあったのに、私たちは言わなかったということ。そして今、私はこれらすべてを経験し、多くのことを見てきた年長のアスリートになった。 私たちが生きている限り、私たちはそれについて詳しく知っているけれど、もし私たちが話さなければ、どうやって誰かがそれについて知ることができる? 今、私はその機会を逃したくないと思ってる。 若いときに話さなかったことで、私はその機会を逃したと感じていて、 そして今、私はその機会を逃したくないだけ。 若い世代がよりよいものを手にできるように、私は発言していきたいと思ってるの。

ジャクソン ある種の報復やヘイターにはどう対処してる? たとえそれが適切じゃなくて役に立たないことでも、常に何かを言いたがる人々にはどう対処してるの? ただ無視する? つまりSNSとかのことだけど。

バード それは、まさにいま進行中で私が取り組んでいることね。私は人間で、他の人たちと同じように傷つきやsensitiveすい人間なの。私について必ずしも知る必要はないけど、私は信じられないほど傷つきやsensitiveすいので、ツイッターを開いてそこに嫌な奴jerksや悪口を言っている人を見ると、それは私に影響を与えてしまう。 なので正直に言うと、数週間前からSNSの使用には本当に気をつけなければいけなくて、私はツイッターをログアウトすることにしたの。 何も見ないようにログアウトしたんだけど、そのおかげで大きな変化に気づくことができた。 つまり、「ああ、また悪口を言ってる嫌な奴がいる」って思う瞬間がなくなったわけ。[……] でも正直に言うと、私は神様に感謝してる。 私たちが若かった頃にSNSがあったら、それに対処できていたかどうかわからないから。

(中略)

ジャクソン おそらく何度かあなたに言ったことがあると思うけど、オーストラリアとアメリカを比較すると、バスケットボールのカルチャーが本当に違う。その一つがプロフェッショナリズムで、リーグが成長するためにWNBAと選手が協力する方法なんだけど、 この2カ国のバスケットボールカルチャーの違いは何だと思う? あなたは私や向こうにいた他のオーストラリア人選手を通して、たくさんのバスケットボールカルチャーを見てきたと思うけど。

バード あなたの言う通り、多くのバスケットボールカルチャーを見てきたわね。で、私が間違いなく思うのは、どこで育ったか、どんなカルチャーを持っているかが、その人がどんな人になるか、どんな選手になるかに影響するということ。私が一緒にプレーしたオーストラリアの選手には共通点がある。あなたたちは共通の背景を持っていて、そこには間違いなく、あるマインドセットがある。つまり、あなたたちはみんな、とてもタフな心を持ってる。フィジカルなプレーのことを言ってるんじゃないのよ。あなたたちはオーストラリア代表として戦う時、いつもフィジカルにプレーするけど、私が感じるのは精神的なタフさの方。私の周りにいたオーストラリア人はみんなそれぞれに精神的なタフさを持っていたと思う。

長い間ずっと思ってたんだけど、それは研究所(オーストラリア国立スポーツ研究所)と関係があるんじゃないか、あなたたちがとても若いときに研究所に行くということと関係があるんじゃないかと思っていて、あなたたちがそういうふうに成長することを強いられるから、自然と精神的なタフさが養われるんじゃないかって。あなたは何歳だった? 14とか15とか?

ジャクソン 15歳だった。

バード でしょ? 私はそれが少しは影響してるんじゃないかっていつも思ってた。あなたと研究所について、そこで経験したことについて話したのを覚えてるけど、そのとき私はこう思ったの。なんてこと! 15歳で家族から離れてどこか別の場所に行くなんて、それがどんなものなのか、どんな影響を及ぼすのか想像もできないって。

(中略)

ジャクソン あなたにはとても素晴らしいコーチがいた。あなたは彼らと素晴らしい関係を築いていたでしょ。リン・ダン、(アン・)ドノバン、ブライアン・アグラー、クロップ(ゲイリー・クロッペンバーグ)……。 

コーチのもっとも優れた資質のトップ5はなんだと思う?
なんでこういうことを聞くのかというと、私たちはコーチが選手に対して厳しいことに慣れている時代にいたけれど、今の選手たちはそれをあまり好んでいないと思うから。
今は全然違う。だからあなたがどう思うのか、何が優れたコーチを構成していると考えるのかを知りたいの。

バード 何よりもまず、アイデンティティを持っていることが非常に重要だと思う。 私がプレーしたすべてのコーチのアイデンティティに同意するわけではないけれど、私がプレーしたほとんどすべてのコーチがアイデンティティを持っていたという点で、私は本当に幸運だった。


……といった感じで、二人のレジェンドによる貴重な話を聞くことができる。上に書き留めた会話はほんの一部なので、続きが気になる人は YouTube を見てみてほしい。
英語がわからない? 大丈夫。私だって英語は得意じゃないし、中学・高校の授業で習ってない英単語が出てきたらお手上げだけど、それでもなんとかなってるんだから。

YouTube の自動字幕翻訳を信じろ!

さて、そろそろ、なぜ「ローレン・ジャクソンの選択」を書いたのかという本題に入ろうと思うけれど、もともとはFIBA女子アジアカップ2023について何か書くつもりはなかった。
あの大会については多くのメディアが報じるだろうし、いろんな人がいろんなことを書くだろうから、そこに私が何か付け加えられるとは思えなかったので。

でも、アジアカップの期間中にJBA(日本バスケットボール協会)のホームページを見たことがあったんだけど、ぱっと見では、いま女子代表がアジアカップを戦ってることなんてまったくわからない状態だったし、アジアカップで準優勝した後も、JBAのサイトでは完全に空気だった。(同時期にオーストラリアバスケットボール協会やニュージーランドバスケットボール協会、JFAのサイトを見ていたから、その違いに愕然としてしまった)

それに、プロフィールに「国内外のジャンルを問わず、さまざまなバスケットボール情報をお知らせしています。」と書いてある下記のツイッターアカウントでも、このツイートを最後に女子代表のニュースは報じられてない。つまり準優勝という結果は伝えられていない。(優勝してたら、6連覇してたら取り上げられてた?)

さらに言えば、プロフィールに「B.LEAGUEや日本代表戦など、バスケットボール関連情報を発信していきます。」とある以下のツイッターアカウントには、6月以降、女子日本代表の情報は一切ない。U19W杯についてのツイートはあっても、三井不動産カップや女子アジアカップに関するツイートは何ひとつない。

誤解してほしくないんだけど、私は上記のメディアを叩きたいわけじゃない。そもそも日本ではバスケットボールなんて数字取れないんだから、バスケに特化したアカウントを開設してくれてるだけで感謝すべきで、それを忘れて文句だけ言うのは違うと思ってる。(スーさんはまた違った見方をするかもしれないけど)
ただ、女子日本代表の選手たちの気持ちを考えると悲しくなるし、次に彼女たちが試合をしたり大会に参加するときは、ちゃんと触れてあげてほしいなって思う。

余談だけど、昨今は自分が敵認定した相手の過失を見つけると ”嬉々として” それを責め立て、敵(と決めつけた相手)がその後変化することを許さない(「今後も絶対女子代表のニュースを取り上げないでね。そしたらまたネタにして叩けるから」みたいな)態度を取る人がたくさんいるし、そうした方がバズったり、「いいね」の数も稼げるのかもしれないけど、私はそういう jerks とは違うとだけは言っておく。(これについてはキング牧師原稿で詳しく書いた)

とにかく、そういったJBAのサイトだったり、バスケットメディアのツイッターだったりを見ているうちに、私はFIBA女子アジアカップについて何か書くべきだと思った。正直、最初は何を書いていいのかわからなかったけど、でも、なんだっていい。何か書けるはずだって……。

あの日、空高く昇った月はとても大きく見えたのに、それは徐々に欠けていって、気づいたらいつのまにか半分近くになってしまってる。
どうしてこうなった? なんて言わないでよ。

月が欠ける理由なんて小学生だって知ってる。


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