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Histoire De Zazie Films 連載⑦    ハッピー・ゴー・ラッキー あるいは、大ヒットは15年おき。

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成功談は読むほうはそんなに楽しくないと思うので(笑)、あまり扱わないようにしようと思っているのですが(と威張るほど、成功例はないけど)、31年も会社をやっていれば、ほんのたまに上手く行くこともあります。

ザジの場合、新作のメイン興行(1日1回のモーニングやレイトショーではない、日中複数回上映する通常興行)での初の成功体験と言えるのが、2004年2月にシネスイッチ銀座をメインに公開したデンマーク映画『幸せになるためのイタリア語講座』(ロネ・シェルフィグ監督)
初日の劇場前に長蛇の列が出来た風景は、おそらく今際の際、走馬灯のように思い出す人生のハイライト・シーンに登場するかも、と本気で思います。

この作品を買付け、配給することになったのも、いくつかの偶然が作用しています。元々、作品の存在は知っていたものの、映画祭等の国際マーケットに登場するや、すぐに日本の権利は売れ、アメリカではミラマックスの配給で非英語映画としては異例の大ヒット、ザジとは無縁の映画のはずでした。
しかし、当時セールスを担当していたデンマークの会社と、たまたま別の作品の交渉をしていて、「日本の権利がキャンセルになったので、興味はないか?」と声をかけられたのです。へぇ、だったらとりあえず観てみようか。

幸せになるためのイタリア語講座メイン

全編ロケで撮影する、照明を使わない、など制作上10の規制を設けた、ラース・フォン・トリアーが提唱する“ドグマ95”にのっとって撮られているので絵面は最強に地味ですが、人生にちょっと疲れた孤独な登場人物たちが、イタリア語教室に通うことによって、他者とのかかわりに目覚めて行く、という、シンプルながらとてもチャーミングな映画で、これは日本のマーケットでも受け入れられるんじゃないか?と買付けを決めました(なぜ最初に買い付けた会社がキャンセルしたのかは、いまだに知りません)。

幸い、この映画に一番カラーが合っている(と、勝手に思った)シネスイッチ銀座さんも作品を気に入ってくれて、初のブッキング。宣伝マーケティングが開始されました。

当時良く言われたヒットの原因の大きな一つの要素が、邦題。今でこそ“ありがち”だと思われそうな、この『幸せになるための~』というフレーズが当時はまだ新鮮な響きを持っていて、『イタリア語講座』というキャッチーな単語と繋がって、絶妙な効果をもたらしたのでした。この邦題は元々キャッチコピーとして考えたものなのですが(その時に考えていたタイトルは、英語題そのままの「イタリアン・フォー・ビギナーズ」)、「待てよ。題名もこれでイケるんじゃ?」と思ついたのでした。

宣伝展開で、個人的に大きな成果だと思っているのが予告編のナレーション。私は業界の知り合いの方なら、ほとんどの方がご存知の通り(笑)“原田知世さん命”なDNAを持っています。この作品の予告ナレーションには知世さんのあの柔らかな声しかない!と考え、当たって砕けろ、では本当に砕けてしまうことが想像出来たので、細心の注意を払い、知り合いの、知り合いの、そのまた知り合いの…というツテを使い、事務所のOKを頂き、晴れてナレーションを担当して頂くことになったのです。
オファーを受けて頂いた後も、「ご本人がイメージし易いように」と、自分で予告の絵コンテなんて作っちゃったりして、細心の注意を払って制作を進めました。こないだたまたまその絵コンテが出てきたので、貼っておきます。こんなの作ったの、後にも先にもそれ一回(笑)。

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『幸せになるためのイタリア語講座』は、当時の単館マーケットで大ヒット、全国70館以上で上映して頂きました。その勢いに乗って次も“邦題の勝利”を目指して、中国映画を配給しました。『わが家の犬は世界一』と言います…。なかなか知ってる方はいらっしゃらないかと…。そしてザジフィルムズは、次に大ヒットを放つまで、15年近い年月を要したのでした。やっぱ、自分で書いていても思いますが、成功談は面白くないですね。
次回は「誰も知らない」と題して、ヒットに至らず、忘れ去られて行った愛すべきザジ配給作をご紹介しようかな…。


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