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Histoire De Zazie Films 連載⑧    来る、あるいは、来なかった映画について。

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前回の記事はこちら☞ 連載⑦ハッピー・ゴー・ラッキー
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今回は予告通り、ヒットしなかった映画たちのお話。「誰も知らない」だと、日本のどこかに存在している、ご覧になって、その映画たちを愛して下さっている方に失礼だと思い、改題しました。

映画の初日は、配給会社の人間にとって朝からキリキリと胃が痛くなる日。宣伝が上手く行って、前売り券の売れ行きも好調で「あら?なんだかヒットの予感…」ということも稀にありますが、たいていの場合は、人事を尽くして天命を待つ、という気分で、まな板の上の鯉状態。

最近はほとんどの映画館がネットでチケットを販売しているので、ネット上で事前に座席の埋まり具合をチェックすることができ、当日の朝、初回の上映が開始されるまで、お客さんが10人なのか、100人なのか、蓋を開けてみないと分からない、ということはなくなりました。が、よほどの大ヒットで前もってオンライン上で満席になった場合は別として、「5席しか埋まらない」「あ、1席埋まった」などと秒ごとにネットをチェックして、前の晩は一喜一憂。結局、胃がキリキリ、という状態で初日の朝を迎えることになります。

初日が来るたびに、思い出す光景があります。それは1999年のある土曜日。ザジの映画ではなく、別の会社の作品の初日。私はその映画の初日の2回目の上映を、一観客として観に行きました。あまり細かく書くと何の映画、どこの会社か分かってしまうのでボカしますが、銀座通りの端にあった劇場。エレベーターに乗って5階で降りると、エレベーターホールがあり、数歩で劇場のガラスの入り口。場内に入るとお客の入りは2割ぐらいで、20数人というところ。なかなか厳しい出足です。待合スペースでドリンクを買ったりしていると、聴こえてくる声が…。
「ま~だまだ!来~る来る!ま~だまだ!来~る来る!」。
中年の女性が、エレベーターホールと場内を行ったり来たりしながら、そう繰り返しています。そうなんです。その映画の配給会社の方が、エレベーターで昇ってくるお客さんをそう言いながら待っていたのです。

もうこれが私、トラウマで。初日が来るたびに、その女性の姿が目に浮かび、あの声が聞こえてくるんです。もちろんヒットしなかった時にだけ。声こそ発さないとは言え、私もよく岩波ホールでの初日の立ち会いの時など、エレベーターの前に仁王立ちになり階数表示の電光を睨んだりしているので、その女性(ご挨拶をしたことは無し)の気持ちが痛いほど分かります。

で、来なかった映画。
ヒットさせることが出来ず、いまだに心残りな映画の筆頭は『ナショナル7』(‘00)。ベルリン映画祭パノラマ部門に出品され観客賞を受賞したフランス映画で、障がい者施設を舞台にした、障がい者の性の問題を正面から描いたヒューマンコメディ。
2002年の公開でしたが、テーマ的に早過ぎたのか、宣伝展開が思い通りに行かず、「知る人ぞ知る」映画に留まってしまいました。今だったらもっと上手く差し出すことが出来たのに、と思ったりします。

6ナショナル701


2本目は前回も触れた中国映画『わが家の犬は世界一』(‘02)。飼い犬の規制が厳しい現代の北京のペット事情を背景に、庶民の悲哀を描くドラマなのですが、公開直前に日中関係が悪化して、タイアップが無くなってしまったり、大きなパブが無くなったり、不運が重なりました。…ってのは言い訳で、やはり宣伝がイマイチだったんだと思います。だってキャッチコピーが「家族の愛より、犬の愛」。私が考えたの?ひどくない?(笑)

わが家の犬は世界一main


そして3本目はイタリア映画『四つのいのち』(’10)。カラブリア地方の山岳地帯を舞台に、自然の循環をセリフ無しで描く異色作。カンヌ映画祭監督週間に出品され話題になった作品で、ザジとしても興行は挑戦、というか冒険でしたが、東日本大震災の翌月の公開ということもあり苦戦を強いられました。震災直後だってヒットしてる映画はヒットしてる訳で、これも言い訳ですね(涙)。まだまだありますが(笑)、この辺でやめときます。

「四つのいのち」main


出会いにも、買付け交渉にも、来日してくれた監督にも、思い出も思い入れもある、カワイイわが子も同然な映画たちなので、ヒットさせてあげられなかった悔いは、いまだに残っています。内容がどうの、というよりは、やはり差し出し方に問題があったんだろうなぁ、といまだに反省。
でも、この仕事に(どの仕事にも)たられば、は禁物。スキルアップを目指して日々精進していくしか方法はありません。次の映画の初日は、どうか「ま~だまだ!来~る来る!」を思い出しませんように…。

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