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Histoire De Zazie Films 連載⑳    ニュー・シネマ・パラダイス、あるいは、そこにお客様はいるのか?

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前回の記事はこちら☞ 連載⑲わたしは、幸福(フェリシテ)
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今回の20回を区切りに最終回にしようと思っていたのですが、そういえば特集上映、レトロスペクティブについて、ジャック・タチフィルムフェスティバルの回以降、ほとんど言及していないことに思い至り、最終回前に1回追加です。先日行われた横浜ジャック&ベティでのトークショーでも、「どうやってリバイバル上映作を決めているのか?」というようなご質問も頂きました。何を基準、指針にして、先々の特集上映企画を決めているのでしょうか?

実は、特に確固たる指針はないんです。「今、これやったらシネフィルの方々が喜んでくれるかも!」という、ただの思いつきが発端になることがほとんどなのです…。が、「思いつき」だけじゃ、1回分の連載にはならないので、発案から実現に至るいくつかのパターンをちょっとご説明しますね。

先ず、一番企画として成立しやすいのは、やはり周年企画。一昨年はイングマール・ベルイマン監督の生誕100年にあたる年だったので、各国でレトロスペクティブが開催されました。ザジも、過去にベルイマン作品のリバイバル公開をされてきたマジックアワーさんと組んで、全13作品を上映、好評を博しました。現在全国で順次上映している特集上映“ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち”は、ミシェル・ルグラン一周忌の企画。今年はフェデリコ・フェリーニ監督生誕100年なので、他社さんが映画祭を企画中で、ザジは『8 1/2』を入れていただく予定です。

ベルイマン ルグラン

長らくスクリーンで観ることが出来なかった監督の作品を特集する、というパターンもあります。2012年に開催した“ジョン・カサヴェテス レトロスペクティブ”は、シネヴィヴァン六本木で東北新社さんによる特集上映が開催されてから19年ぶりの復活でした。1993年に出版された雑誌「SWITCH」のカサヴェテス特集号は当時大きな話題になりましたが、若い子たちはそれも知りません。そろそろやったら面白いんじゃないか?と企画しましたが、これが大当たり。当初はシネヴィヴァンでカサヴェテスの洗礼を受けた、私のような年回りの客層だったのが、あれよあれよという間に若返り、SNSで「なんかカッコいい!」と広がり、終映間際には女子高生の姿もあったと聞いています。

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もうひとつのパターンは、日本でちゃんと紹介されたことのない監督の未公開作を特集、日本のシネフィル映画史の“ミッシングピース”を埋めるというチャレンジングな企画。たとえば、一昨年の“アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ”。私自身もロブ=グリエについては唯一の日本公開作『囚われの美女』と、ビデオ発売されていた『危険な戯れ』で知っていたのみ。他の作品を観たことはありませんでした。が、フランスのセールス会社が何年か前にまとめて素材をHD化していて、ずっと気になっていました。どの作品もインパクトのあるビジュアルなので、今の時代に受けるんじゃないだろうか?と思い切って企画しました。「ちょっとマニアック過ぎるんじゃ?」という声も多かったのですが、予想以上の成績を収めました。

一方で興行的に上手くいかなかった企画もあります。たとえば“特集上映 モーリス・ピアラ”。フランスの監督や、フランスの映画関係者と話をしていて、たびたび名前が上がる巨匠ともいうべき監督なのに、日本では知名度が低いモーリス・ピアラをこの機会にちゃんと知ってもらおう、とチャレンジしてみたのですが苦戦しました。

最後は企画者が外にいるパターン。去年開催したジョージア(グルジア)の巨匠テンギズ・アブラゼ監督の“祈り三部作”一挙上映は、昨年岩波ホールを退職した、日本におけるジョージア(グルジア)映画研究の第一人者でもあるHさんの企画の実現を手伝わせてもらった形です。

特集上映、頭の中にはアイデアがいっぱいあるのですが、実現するためにはまずは権利を入手出来るのか?という基本的な問題をクリアしなければなりません。そして、本国でデジタルの上映用素材が新たに作られているのか?パッケージを出してくださるメーカーが見つかるのか?などのハードルをクリアしながら、実現に向けて進み始めます。でも、やっぱり一番の問題は「そこにお客さんはいるのか?」です。

とりとめのない自分語りになってしまいましたが、2021年はどんな特集が実現するでしょうか?と、無理やりまとめて終わります(笑)。

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