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Histoire De Zazie Films 連載⑤    切られた首 あるいは、ジャック・タチは190㎝。

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時は2003年7月。数か月前に華々しくオープンしたばかりの新しい劇場を舞台に、その事件は起こりました。ゴダール作品の連打がひと段落し、次に手がけたのが『ぼくの伯父さん』でおなじみ、ジャック・タチ監督のレトロスペクティブ。“ジャック・タチ・フィルム・フェスティバル”と銘打っての、長編4作、短編3作の特集上映でした。

フェスティバルを開催するにあたっては、ザジ以前にタチ作品のリバイバルを行っていたヘラルドさんにかつて在籍してクラシック作品を仕掛けていたベテラン、Sさんにアドバイスを受けました。曰く「タチは大きくは当たらないから、絶対宣伝費をかけ過ぎちゃダメだよ」。そう言われていたのに大先輩の話を聞かず、私は派手なイベントを企画してしまいました。

それは閉館の決まっていた渋谷パンテオンで、フェスティバルで上映する中の1本『プレイタイム』の一夜限りの70㎜プリントによる上映会。前年のカンヌ映画祭で特別上映された際に使用したものをわざわざパリから運んで、日本語字幕を投射しての上映。シネフィルの皆さんには大変喜んで頂けましたが、有料イベントだったのに赤字でした。
ふたたびバブリー。ザジ大丈夫か?(笑)

「プレイタイム」main

それが予兆だったワケではないのですが、事件は公開2週目に起こります。作品は週替わりで、初週は『プレイタイム』。2週目に入り『ぼくの伯父さんの休暇』が始まりました。その日も劇場で立ち会っていたのですが、上映中にお客さんが場外に出てきてクレーム。
「タチの首が切れている!」。これがザジ史上にいう“タチ首切り事件”

『プレイタイム』はヴィスタサイズだったので問題はなかったのですが、『ぼくの伯父さんの休暇』はスタンダード。当時劇場にはスタンダード用の上映用レンズがなく、そのまま映写したためにスタンダード画面の上下が切れ、背の高いタチの首から上が映っていなかったのです(@_@) 
当時運営していた(今も細々とやってます)ザジ公式サイトのBBSは大荒れになりました。当時はその言葉はなかった気がしますが、大炎上。私はただひたすら謝罪のレスを入れ続けました。

「ぼくの伯父さんの休暇」010

翌日急きょ他の劇場からレンズを借りて事なきを得、上映は無事続行されました。映写テストをしたはずなのに、どうしてそんな事が起こったのか、に関しては当時いろいろとあったのですが、それはもう生きた心地のしなかった一日でありました。ジャック・タチの身長が190㎝もなかったら、こんなにオオゴトにはならなかったのに…、と悔やまれます(笑)。

でも私はここで一つ大事なことを学びました。失敗した時は言い訳をせず、とにかく心を込めて愚直に謝ること。BBS上、逃げも隠れもせず、他人のせいにせず謝り続けた結果、書き込む方々の論調が少しずつ柔らかくなり、「スタンダードのレンズが来るまで待ちましょう」という流れになったのです。トラブル勃発直後、BBS閉鎖も選択肢の一つとして検討されたのですが、閉じなくて良かった!あの時の安堵感は今も胸に刻まれています。

メイン「ぼくの伯父さん」 001

「タチは当たらない」。ザジはそのジンクスから解かれることはありませんでしたが、うちの後に権利を引き継いで、数年前に別の会社さんが何度目かのリバイバル特集上映を開催しました。あっさりヒットしました…。

蛇足です。すでにお気づきの方も多いかと思いますが、この連載の各回のタイトルは映画の題名から引っ張ってきています。初回がイエジー・スコリモフスキー、2回目はカネフスキー、3回目は原田眞人、前回が横浜聡子監督作品。敢えて自社の配給作ではない映画から選んでいるのがミソです、って自分で言ってます。
で、今回。いいタイトルないかな~?と調べていて、まんまのタイトルを見つけました。ブラジルのクラウベル・ローシャ監督作だそうで。こんな映画があるの知らなかった!不勉強でした。


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