案外良かったNetflix『ヘッドスペースの瞑想ガイド』


https://www.netflix.com/browse?jbv=81280926

Netfrixで瞑想の番組が始まったという。正直言って「瞑想ガイド」なんてものは最初っからナメてかかっていたが、いざ見てみたら結構良かったので紹介記事を書こうと思った次第。

 そもそも「ヘッドスペース」とは何かというと、瞑想誘導アプリを作っている会社なのだという。日本語版が無いので我々には馴染みが無かったが、実績はあるようだ。というわけでこの番組のオリジナル音声は英語だが、日本語音声と日本語字幕が用意されている(番組後半の実践パートでは目を瞑る場面もあるので日本語音声での視聴がお勧め)。この『ヘッドスペースの瞑想ガイド』は瞑想を全く知らない初心者向けという感じの内容だったが、Netfrixでは今後更に2本の番組が公開される予定だという。今回の出来が良かったので次回作も楽しみである。

 さて、番組本編の案内役の「アンディ」は、自分の人生と心の問題に対処するためにわざわざ大学を中退してヒマラヤに渡り、世界各地の僧院で仏教瞑想を学んで問題を解決してきたという筋金入りの実践派である。だからといって知識量や経験量でマウントをとってくるとか、専門用語で煙に巻こうという態度は微塵も感じられない。自分の言葉で簡潔かつ丁寧に瞑想の要点を的確に説明してくれる頼もしい奴だ。
また、瞑想の効果を説明する時には、大学や病院などで行われた実験結果を紹介するなど、誠実な印象であった。自分が体験した「奇跡」を大袈裟に吹聴したり、「簡単に病気が治るよ」みたいに話を盛るということをしない。初めのうちは瞑想は簡単ではないし万能薬でもない、ということを早々に認めている。
もう一つ良いところは、彼は視聴者に対し「聖なる行い」や宗教儀式を求めるということをしない点である。つまり、意味不明な呪文を唱えたり、特定のポーズをとり続けねばならない、ということは番組中で一切要求されなかった。だから、今なんらかの宗教を信仰しているという人や仏教になんら興味が無いという人も安心して見ていられるな、という感想をもった。

 毎回のエピソード後半には瞑想実践パートがある。それを実際に全てやってみたんだが、初心者向けとは侮れない内容だったと感じた。
まずはオーソドックスな呼吸瞑想から始まるが、いわゆる慈悲の瞑想や疼痛抑制など実用的なレッスンが続き、最終話では「何にも集中しない」という課題が与えられる。つまり、サマタ瞑想を徐々に練習してからヴィパッサナー瞑想や只管打坐に至るという本格的な瞑想修行そのものではないか。流石にこの動画だけで全てを納得いくレベルに修めるのは至難の技だとは思うが、平易な言葉でここまで誘導する構成の手腕には正直驚いた。というわけで私もおさらいとして大いに勉強になった。

 ここまで良いところばかりを書いてきたが、ちょっとした注意点もある。番組で他人に幸せを分け与えるイメージの瞑想をするというプログラムがあるが、「自分が嫌いに思っている相手」の苦労を吸い取って幸せを分け与える、というような場面がある。これに似た瞑想は「慈悲の瞑想」といったような呼び名でテーラワーダ系の仏教瞑想にもあるが、瞑想指導者ティク・ナット・ハン師などは嫌いな相手や恨んでいる相手に対する慈悲の瞑想には無理せず取り組むようにと注意書きを添えている。もし、いじめや虐待などトラウマ体験と関連した人物を思い浮かべてしまった場合、フラッシュバック等の深刻な反応を呼び起こしてしまう可能性があるためだ(私の場合も実際に顔面が痙攣するなどの反応が出てきてしまったが、対処できた)。
だが、『ヘッドスペースの瞑想ガイド』ではそのような注意喚起はほとんど行われなかった。なんか嫌な予感するなと身構えていた私がこうなったのだから、何も知らない初心者が健康的に対処できるかどうかは疑問である。もしそのような不健康な反応が表れたら無理せず中止するなどして落ち着かせてほしい。

 とまあ問題点もあるにはあるが、全体的には非常によくまとまった作品であると感じた。次回作が楽しみである。

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