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【ss】詩と暮らす #シロクマ文芸部

詩と暮らす人生は美しく楽しいものであった。
最後の時を迎えた今、改めてそう思う。

日々の食事に困るほど貧しい家に生まれ、流行病で両親を相次いで亡くしても、私の心にはいつも詩があった。

見たことない異国の景色
豊かな自然の恵み
神への感謝
愛する者へ紡ぐ言葉

そんな美しい詩の世界を想う時、私の心は幸せで満たされるのだ。

友に裏切られ、故郷の町を追われても、
物取りに殴られ、身ぐるみを剥がされても。

暗い時代が来て、心ならずも敵に銃口を向けた時、動かなくなった少年兵を前にして私が詠っていたのは、美しい男女が奏でる愛の詩だった。

縁あって妻を娶った。
妻が産んだ子は幼くして死んだ。
息も出来ない程泣き崩れる妻の横で、私の心を占めていたのは別れの詩だった。
別れはいつも切なく美しい。

子の葬式が終わると妻は出て行った。
別れ際、妻だった女が何か言っていたが、もう覚えていない。

時が流れ、身体は衰え、働けなくなると物乞いになった。残飯を漁り泥水を啜るような暮らしの中にあっても、私の心に訪れる詩はいつだって私を幸せにした。

そして今、最後の時を迎えている。
真っ赤な夕陽がゆっくりと沈んでいく。
どこかでみた色だと思ったら、あの日私が殺した少年兵の流した血の色だった。

あゝなんて美しいのだろう。

これが詩の世界なのか、現実なのかもうわからないが、詩と暮らした人生は本当に幸せだった。

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今回も遅れてしまいましたが、いつもありがとうございます

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