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【ss】十二月 #シロクマ文芸部

遅れるにも程がある!!
のでお昼休みにこっそり投稿


十二月に入ると街はクリスマス一色になる。
オフィスビルのエントランスに飾られた大きなツリーを見上げながら、我が家のツリーはどこに仕舞ったかな? と考えていると、後ろから声をかけられた。

「おはようございます! 先輩」

後輩の西山君はきれいな檸檬色のマフラーを巻き、両手でドトールの紙カップを持っている。
そういえば先日、「一周まわってドトールなんですよ」なんて言っていたっけ。西山君がどこを一周まわったのかはわからない…

「先輩、クリスマスは空いてますよね? クリパしましょう! タコパでクリパ!」
西山君は歌うようにそう言った。

ウチはワンルームだし、先輩の家は広いでしょ? という西山君の一言で我が家でのクリパ開催が決まる。そりゃファミリータイプのマンションだからね…

当日我が家に集まったのは、西山君と去年定年退職した元常務、電話の対応が悪すぎて社員の八割に嫌われている経理の須藤主任というメンバーだった。西山君の交友関係は謎なのだ。

「君も離婚したんだって? 私もだよ、熟年離婚、ワッハッハ」

元常務は豪快に笑うと、その後飼い犬の親権を巡る元奥様との激しい攻防を熱く語ってくれた。今はわんちゃんと仲良く暮らしているらしい。
 その話を聞く間に日本酒ニ合を空けた須藤主任は、口は悪いけど言っていることは大体正しいので私は嫌いじゃなかった。まあ、得意でもなかったけれど。

始めのうちこそぎこちなかった我々も、協力してタコ焼きを焼くうちに国立を目指したチームメイトくらい親しくなった。タコ係を任命された私は度々入れ忘れて西山君に叱られた。ことタコ焼きに関して西山君は厳しい。

最後にサンタの格好をした西山君からプレゼントが配られると、我々おじさんさん三人は子どものように喜び、揃ってビリビリ包装紙を破いた。出てきたのはトナカイのマグカップとドリップコーヒーのセットだった。

「また来年もやりましょう!」
そう言って三人が帰って行くと、急に秒針が大きく響きだす。
 ツリーには西山君が飾りつけたライトがピカピカと光り、手元のマグカップからは珈琲の香り。

『メリークリスマス!』

元妻は今どう過ごしているかな、そんな事を考えている。

※毎度、参加させていただきありがとうございます。

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