見出し画像

【ss】冬の色 #シロクマ文芸部

冬の色は何色?と聞かれたら迷わず空色!と答えると思う。東京の冬はいつも晴れて青空が広がっているからだ。

事情があってナナの両親は離れて暮らしている。お父さんは東京にいて、ナナとお母さんはお母さんの実家のある東北の町で暮らしている。両親の間にどんな取り決めがあるのか分からないが、お盆とお正月は東京のお父さんと過ごすと決まっていた。

冬になると雪雲が垂れ込め、毎日灰色の空ばかりの東北の町と違い、東京の冬はいつも晴天だ。

「空っ風が冷たいだろう?」

お父さんはいつもそう言うけど、地吹雪が吹き荒ぶ中の登下校に比べると天国みたいだった。

ナナが上京するとお父さんは張り切っていろんな所に連れて行く。映画を観てデパートで買い物をし、遊園地、動物園、水族館と毎日お出かけした。でもナナが一番好きなのは近所の公園で遊ぶことだ。タコ公園には大きなタコの滑り台がある。ナナは飽きもせずに何度も滑り、お父さんはニコニコしながらそれを見ていた。帰り道にはブタの形のケーキを買ってくれた。

お正月三が日はあっという間に過ぎ、お父さんの仕事初めの前日にお母さんの元に帰る。帰りの新幹線に乗る時、お父さんは周りの人達に声をかける。ナナが降りる駅を告げ、道中よろしくお願いしますとペコペコ頭を下げた。

新幹線がホームを離れる直前まで、ナナは下を向いている。お父さんの顔を見ると涙が出そうだからだ。新幹線が動き出す瞬間に顔を上げ、笑顔を作って手を振ると、お父さんも笑って手を振り返した。

お父さんが見えなくなると涙が溢れた。私はこれからお母さんやお婆ちゃん達のいるお家に帰るけど、お父さんは一人だ。新幹線のホームを降り、電車を乗り継いでひとりぼっちのマンションに帰って行くお父さんの姿を思うと涙が止まらなかった。

泣き続けるナナを見て、隣の席に座るおばさんは黙って蜜柑をくれた。小ぶりの蜜柑は甘いのにナナの涙は中々止まらない。新幹線はいつの間にか都会を離れ、車窓には収穫の終わった田んぼが広がっている。

早く泣き止まないとお母さんを心配させてしまうのにと思えば思うほど涙は止まらず、目をゴシゴシと擦り何度も鼻水を袖で拭った。

※こちらに参加しています。
いつもありがとうございます。
また少し遅れました汗

※8割エッセイのようになってしまいました。
数十年前の話と思って読んでいただけるとありがたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?