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助手席の異世界転生(毎週ショートショートnote)

「俺、転生してきたんだよね」

助手席の彼がVAPEを吸うと僅かに甘い香りが漂う。

「転生ってスライムや悪役令嬢になるあれ?」

「そう、あれ」

「えーっとドコの世界線から?」

「山梨。現代の山梨から現代の東京に転生したの」

「それ転生じゃなくてただの引越しでしょ」

「いや、転生だよ、真面目な葡萄農家だったのに現代東京にホストとして転生しちゃってさ、挙句、姫に飛ばれて借金まみれ…あ、このICで降りて」

「もう! 急に言わないで」

「だから元の世界線に戻りたいなぁって思ってさ」

韮崎ICを降りると、山に向かって車を走らせた。

《これって、突然『俺の嫁』って親に紹介されるパターンなんじゃ…》

「あ、ここでいいよ」

古い民家の前で車を停めると、

「ありがとう、気をつけて帰ってね」

と言うと引き戸をガラガラと開けて入っていき、それきり戻ってこなかった。
未練がましく20分待ち、Uターンして帰った。

彼の嫁にはなれなかったけど、異世界山梨から毎年葡萄が届く。

(411字)

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