文系ゲームプランナーのお仕事:ビジュアル素材編

 風呂がGW明けまで直らないことが確定した雑務屋です。
 色々萎えてしまって、ゼロスタートのディライトワークス関連の記事は一旦脇に置いて、書きかけだった運営型ソーシャルゲーム開発における文系プランナーのお話でも書こうと思う。

 ちなみにプログラムなどの専門知識を活かしたメカニクス設計のプランナーを目指している方には、全くとは言わないがあまり参考にならないと思う。だって、私それ出来ないし、やったことないし。

 さてまずはごく汎用的に使われるプランナー、いわゆる企画職とは何を指しているかというと「ゲームの設計に携わっている」という表現が一番近いと思う。

 ゲームジャンルやターゲットによって内容も様々に異なるが「これはどういった遊びをするものなのか」というゲーム開発の大本を担当し、それを軸にレベルデザインやバトルデザインなど様々な仕様を切るのが仕事だ。

 ゲーム開発の根本を担当することになるため、専門知識、特にアクション性の強いゲーム開発においては、開発用ソフトの知見を持つ人が企画職になるとメチャクチャ重宝され、メカニクスをバシッと制作できる超カッコ良いポジションである。
 正にゲーム開発における花形。エース的な立ち位置だ。

 が、これは「メカニクス」を作れる凄いプランナーたちのお話であり、私のような文系プランナー、つまりテーマプランナーのお仕事は、ぶっちゃけメカニクスプランナーたちのお手伝いであり、彼らの仕様に沿って「テーマ」、つまりはイラストやボイス、サウンドなどの各種素材を作るのが仕事だ。

 その内実は正にゲーム制作現場における何でも屋、というか雑務屋である。私のペンネームが「雑務屋」なのも仕事内容が正にコレだからである。

 とはいえ、ゲーム制作現場は、基本チーム制の総合エンターテインメント。いくつもの異なった資質・業種のクリエイターが必要になるため、それらを総合して「ゲーム」という形で世に送り出すには、開発現場を円滑に進めるための表に出ない仕事はめちゃくちゃ多い。

 それらをまとめて「プランナー」が担当する場合が多く、ここではそんな特に表に出にくいテーマプランナーの仕事の数々を紹介しようと思う。

■テーマ関連
・ビジュアル素材制作
・ボイス制作
・SE、サウンド制作
・3Dキャラ、マップ制作
・シナリオ制作
・ゲーム内テキスト制作
・カスタマー分析(KPI、DAU、ARPPU)

 上記はざっと私が担当したことある、というか現在進行形で携わっている「テーマ」関連の業務を列挙してみた。ちなみに各業務ごとの詳細は、それぞれ別記事にして挙げていこうと思うが、今回は素材関連の中でもビジュアル素材編である。

 一口にビジュアル素材といっても、キャラクターイラストや背景イラスト、UIデザインなど種類は多岐に渡り、全部ひっくるめて「ビジュアル制作」と呼称する現場であり、つまりは「メカニクス」で設計された仕様を視覚化するお仕事だ。

  今回はゲーム開発におけるイラストが出来て、実装されるまでの流れの一例を解説しようかと思う。ちなみにビジュアル制作の現場は本当にパターンが多様で、ぶっちゃけタイトルごとに作り方が違うが、大まかな流れを説明する。

・STEP1:再構築

 これは開発現場によって「抽出」とか「分析」とか「分解」とか名称が変わるが、つまりは仕様書やシナリオからゲームイラスト素材の要素を抜き出すことである。

 FGOを例にしてみると、最新のメインシナリオである「地獄界曼荼羅」にはどのようなビジュアル素材があったかを見てみよう。

・サーヴァントのキャラ絵
・バトル用のキャラ絵(開発では「バトルキャラ」と呼称しているようだ)
・バトル画面背景
・マップイラスト
・マップイラストに表示されるロケーションアイコン
・ADVパート背景イラスト
・ADVパートのムービー素材
・新規アイテムアイコン

 もっとあるかもしれないが、ざっと見ただけでもこれだけの新規ビジュアル素材を用意する必要がある。

 これら全ての素材の点数を割り出し、メカニクスと整合性を合わせ、新機能が必要ならばプログラマーと協議し、発注からビルドまでのスケジュールを練らねばならない。

 この部分だけでもメカニクスプランナー、エンジニア、デザイナー(しかも開発体制によっては、キャラ素材と背景素材、アイコンなどUI素材、動画素材などでそれぞれに部署が違う)、外部発注の場合は外部協力会社など、とにかく多数の部署・関連会社にまたがる素材の交通整理を行ない、それぞれを適切な所に振り分けなければならない。

 そして、主にスケジュールの面でデザイナーに、新機能の場合はプラスしてエンジニアにも殺意を込めた視線を向けられるので、ここで交渉や懐柔、私の場合は焼肉だのオタグッズを使い、何とか頼み込むのである。

 これらの関係各所との擦り合わせは、人間関係を前提としているので割とハードな業務であり、成果物に直接結びつくわけでもなく、世に出たものが賞賛される時は大体作ったイラストレーターやサウンドクリエイター、ディレクターなどの功績として認知される。

 そのため、人間関係というセンシティブなものが業務の基本にあるのに、誰にも褒められないので、向いてない人にはとことん向いていない業務であり、人によっては多大なストレスがかかり、心がどんどん擦り減る。
顔写真付きのインタビュー記事などで、プランナーと呼ばれる職種の人が遠くを見ている目をしているのは、大体このせいである。

 そのため、開発現場によっては「リソースマネージャー」、「コンテンツマネージャー」などの名前で、交渉窓口・工程管理専門の部署があるくらいにはハードなのである。

 余談だが、私の場合は初めて一緒に仕事をしたプランナーの先輩が、初対面であろうが何だろうかビジネス上の会話ならば人との交渉大好きマンで、必死にそれを模倣して、何とか彼の仕事スタイルの劣化コピーのようなものを確立させたが、あの先輩が業界でも稀有な例であったというのは、ゲーム業界に長く所属するほどに痛感した。

 しかし、これができるからこそどんなゲーム開発の現場でも食いっぱぐれないでいられるので、先輩の教導には本当に感謝している。

・STEP2:発注資料作成

 素材制作までの道筋が決まったら、いよいよ発注資料を作って各クリエイターに具体的な発注をすることになる。発注資料は作成する媒体によって異なり、その種類は多岐に渡るが、ここでは「キャラクターイラストを外部のフリーイラストレーター、ないしイラスト受注会社に発注する時」を例にする。

 分かりやすいキャラ設定の書き方や参考画像などは、イラストレーター側目線のお話がいくらでもあるので割愛するとして、今回は開発者側が気を付けていることに関して記述する。

 まずは何と言っても「〆切り」・「金額」・「中間工程の規定」を必ず明示することである。〆と金額は分かりやすいと思うが、中間工程の規定というは、例えば「ラフ→色ラフ→着彩稿の3段階で提出をお願いします」とか「各工程のリテイクは最大〇回まで行なう場合があります」という、制作段階に入ってからのルールのことだ。

 開発側とイラストレーター側でのトラブルは枚挙に暇が無いが、金銭トラブル(原稿料未払いとか)というのは意外と少なく、「制作段階に入ってからのトラブル」が大半を占める。

 世にいう「無限リテイク」や「着彩からのラフ段階までの巻き戻し」などは、この制作工程の握りが曖昧だったが故に起きるものであり、これが発生するともう不幸なことしか生まれないので、絶対に避けるようにしている。

 ちなみに私が自分の現場ではこの3点セットで絶対に定めるのは、イラストレーターに気持ちよく仕事をしてもらうためというのもあるが、身内の開発側のク〇リテイクを抑え込むためでもある。

 この規定さえあれば「なんか違うんだよなー」とか言い始める馬鹿には「もう規定リテイクしたので、これ以降が追加料金が発生しますが、開発費の上乗せはプロデューサーに許可取ってるんですか?」と言えば大抵黙る。

 「もっとこう、グワッ仰ぎで迫力のあるアングルにしようよ」と着彩稿に言うアホには「これ3Dじゃないんで、構図変えはラフ段階からの描き直しになるので、追加料金が発生しますが、それはプロデューサーに許可取ってるんですか?」と言えば大抵黙る。

 まあ時々プロデューサー自身が〇ソリテイクを出す時があるが、その場合は「プロデューサー」のラベルを「経理」や「財務」に変えるだけだ。
 金の責任を負う者はなかなかいない。
 ビジネスにおいて、金の話が一番相手を黙らせるのに効果的なのはゲーム会社でも同じなのである。

 また発注とは直接関係ないが、私は必ずクリエイターの名前がゲーム内に載ることをどんなプロジェクトでもメカニクスプランナーとUIデザイナーに捻じ込み、発注書にこの事項を明記するようにしている。

 特にフリーの表現者にとって、公表できない作品はSNSなので喧伝できず、営業用のビジネス資料としてポートフォリオに載せるのがせいぜいで、次の仕事の呼び水にならないので、案件の価値として一段落ちることを開発者側は意外と見落としがちだ。
 向こうもプロであり、ビジネスである以上、利にならない仕事を受ける理由は無いのだ。

 ひと昔前は「ゲームが売れてイラストレーターに注目が集まったら、原稿料が上がって、どんどん仕事が舞い込んで発注できなくなってしまう」という認識の下、イラストレーター非公開のゲームが多かったが、これは明確な誤りだ。

 イラストレーターだって人の子なので、注目されるきっかけになったタイトルには、仁義で他の案件より優先して受けてくれる人も多く、多少原稿料が安くても「発注資料が分かりやすいし、リテイクが少ないから」と描きやすい環境の発注元を選ぶ人もいる。

 また原稿料の値上げは往々にしてあるが、いきなり〇十万のアップを要求する人はそうそういない。いや時々いるけれども、それにしたって一度関係が出来ている以上はある程度交渉の余地はあるのだ。

 ちなみに私は発注書は、これらの必要事項の穴埋め方式フォーマットにして、後進育成業務としてよく新人に任せている。

 何故かというと、これはめちゃくちゃ楽しい業務だからだ。
 どれぐらい楽しいかというとコレがやりたくて管理職になりたがらないプランナーがいるくらいに楽しい。

 後の工程管理業務を通じて、自分の設定したキャラが描かれ、3Dモデルになったりする光景は、ゲーム開発者にとっては一番ワクワクするところで、最大の楽しみといって過言では無い。
俺の考えた嫁/旦那をプロが総出で作ってくれて、声優が声を当ててくれる機会などそうそうないのだ。

 ただでさえ環境の変化で何をせずともストレスが貯まる新人プランナーには、まず仕事の楽しい部分を見せないと心が持たないし、きちんとしたケアさえすれば(任せっぱなしの放置はダメ絶対)、発注書制作を通じて各関係部署に新人のご紹介と人間関係の入口を提示でき、他の業務にも広がる基本的な能力の育成にも役立つので良いこと尽くめである。

・STEP3:途中工程管理

 これは昨今の現場では別部門やデザイナー部門そのものが担当するパターンが多くなっている気がするが、プランナーは発注完了したら後は待つだけ、というものでもない。

 キャライラストで言えば、上がってきたラフが想定したキャライメージに合っているかとか、メカニクス要件を満たしているかなどをチェックする必要がある。

 特に3Dモデル前提のキャラデザインの場合、ものによっては装飾や衣服に慣性が働くものが多いデザインだと、後で3Dモデラーに死ぬほど恨まれるので、事前にデザインを見せて意見を持ち寄ってもらい、場合によってはイラストレーターさんにリデザインしてもらうこともあったりする。

 イラストレーターの立場が強いと「いや、それを3D化するのがモデラ―の仕事でしょ?」とか言われたり、シナリオライターの立場が強い現場だと「何でデザイン変えるの? アレお気に入りなんだけど?」とか言われりもするが、そこは懇切丁寧に説明して全員の妥協点を模索するのだ。
 つまり、素材完成までは心は強く持とう。

・STEP4:実装管理

 さて、いよいよ素材が完成したら後はもう入れ込みを行ない、バグチェックをするだけであるが、この業務自体はデータそのものを扱うため、テーマプランナーではなく、メカニクスプランナーが行なう事が多い。

 ただ、仕様上の要件はメカニクスプランナーが、プログラム上きちんと動作しているかどうかはデバックが確認してくれるが、表示されている素材が正しいものかどうかは、テーマプランナーが確認しなければならない場合が多い。

 特に「キャラデザそのままで、武器のデザインだけ少し変わります」みたいな小さな差分を実装する時は、発注者がきちんとみないと意外と漏れていたりするので、リリースまで気が抜けない。

 現場によっては「なんかこのイラスト、ちょっと気に入らない部分があったので修正しました」とか、イラストレーターがリリース前日にぶっこんで来たりする時もあり、その時は素材差し替えと飛び込みの緊急実装チェックをデバックチームに土下座してお願いすることになるわけで、それもテーマプランナーのお仕事である。ちなみにこれはリリース後でも起こったりする。つまりは、本当に心は強く持とう。

 以上が、キャライラストの制作スタートから実装までの大まかな流れである。だが、これらの業務フローは開発現場によって正に千差万別。
 発言力のあるクリエイターや部署がどこか、などでも対応パターンは無限に増えていき、正に「正解の無い仕事」が続いていくことになる。

 しかし、各セクションの都合や言い分を調整してベターな落着をさせるという業務内容自体にはそれほど変化が無く、いわゆる「つぶしが利く」人材になることが可能だ。

 実際、私はゲームに関する専門知識は何も持っておらず、仕事を教えてくれた先輩ほど完璧で有能な仕事ぶりも発揮できないが「何か面倒くさそうなことをやってくれる」というフワッとした評価だけ、周りのスタッフに生かしてもらえている。

 そんな訳で人と付き合うことが苦にならない人は、是非文系だろうが何だろうがゲーム制作に興味があれば業界に入ってきて欲しい。
 確かに開発側になるとユーザーでいられた時とは違い、心が削られることも多いが、チームで作った作品が世に出ることに、何事にも代えがたいほど喜びがあるのは、また確かな事実なのだから。

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