ディレクターとプロデューサー ~FGO運営の体制も添えて~
ご無沙汰しております。
夜逃げのように引っ越してからはや1ヶ月弱。
体も寄る年波には勝てないもので、引っ越しでギックリ腰と膝の古傷が再発のダブルパンチという、日常生活すら危うい状況が起こり、気付けば前記事から随分と間が空いしまった。
その間にも大変ありがたいことにフォロワーになっていただけた方々がおり、今回も1万字クラスの濃度のネタの執筆を、とか考えていたが、よくよく考えたら毎度1万字も読ませる意味とは? という哲学に陥ったので、今後は軽めのものを断続的に書いていく形にしていこうかと思う。
さて、今回のお題は最近開設したTwitterアカウントで、DMに届いた「プロデューサーとディレクターって何が違うの?」という質問に関して、記事にしていこうと思う。
ちなみに、今回の内容は、主に「ソシャゲーのような運営型タイトル」の開発現場での話だ。
コンシューマや買い切り型のゲーム制作現場では、また異なった様相を呈するので、その点だけはご理解いただきたい。
またこの話題を通して「FGO」運営であるディライトワークス社(以下DW)の体制も併せて類推してみようと思う。
「今回もDWネタかよ」とお思いの方もいるかもしれないが、だって一度調べた会社って書きやすいんだからしょうがない。
・そもそもプロデューサーとディレクターって?
昨今、よせばいいのにストリーミング放送をはじめとして、果てにはテレビにまで出演するゲーム開発現場の人が増えてきた。
ぶっちゃけ、ゲーム開発現場は「目を見て相手と話せる」レベルの人を「陽キャ」と評するほどに陰キャの集まりになる場合もあるので、メディア向けの人間なんてほとんどいないのだが、やむにやまれぬ事情というのもある。
急速に発展したSNSとyoutubeliveを始めとした放送環境の充実で、ユーザーと開発の距離が縮まり、特に大きな会社や名の知れたタイトルの開発チームは「開発の人間が直接ユーザーに向けて情報開示しないのは不誠実だ」とまで言われる風潮になってきている。
ゲーム運営としてはやらざるを得ないというのが本音だろうが、その影響でユーザーの皆さんは、ゲームの公式生放送などで「プロデューサー」や「ディレクター」という肩書きの人たちを目にする機会は増えたことだろう。
ただ、ゲーム開発会社というものは従来の会社のように、「課長」とか「部長」とかいった分かりやすい役職になっていない場合が多い。
ユーザーの皆様にはイマイチその職分が分かりにくいと思うので、そこのところを今回は解説したいと思う。
まず、通常ゲーム開発現場で「一番偉い」とされるのが「プロデューサー」である。
大抵はそのゲームの開発プロジェクトの発起人であり、かつ開発計画を作った当人であり、予算管理や制作スタッフの人事権を持っていることが多い。
会社の規模にもよるが、一般的な会社構造に当てはめると、ゲームプロジェクト=一部署のような感じなので「部長」ということになるだろうか。
そして、プロデューサーの立ち上げたゲーム企画に対し、実際にゲームを作る現場責任者が「ディレクター」だ。
コンシューマの例であるが、昨今のゲーム業界での有名人で分かりやすいのは、「NieR:Automata」プロデューサーの齊藤陽介氏とディレクターのヨコオタロウ氏のコンビだろう。
齊藤氏が「NieR」の全体的な舵取りを行ない、予算をスクエニから引っ張り、サウンドの岡部啓一氏、アートの吉田明彦氏、開発担当のプラチナゲームズなどの人事を行ない、それらの計画に沿ってヨコオタロウ氏が好き勝手やる、というあそこまで明確に「お互いの仕事」を分けている例は稀だが、非常に分かりやすい構図だ。
運営型のソシャゲ業界でも、この方針自体はそう変わらない。
おそらくFGOでも「7月末に〇周年記念イベントをやって、その後夏イベントを行ないましょう」など、計画を立てるのがプロデューサーがおり、それを実際の形にする責任者がカノウヨシキ氏、ということになるだろう。
さて、ここで肝要なのが、「ディレクター」はあくまでゲームプロジェクトというひとつの部署における、「ゲーム開発課」という一つの課の課長でしかない、ということだ。
運営型のゲームというものは「ゲーム開発課」さえあれば成立するというものではない。
イラストチームやサウンドチームといった素材制作チームは勿論、
公式ラジオやストリーミング放送などを運営する宣伝チーム、
ネット記事やゲーム雑誌等の外部メディアに対応する広報チーム、
ユーザー問い合わせに対応するカスタマーチーム、
バグチェックを行なうデバックチームなど様々に存在する。
一つのゲームプロジェクトには「ゲーム開発課」の他に、いくつもの同等の「課」が存在し、そこの責任者も大抵は「アートディレクター」とか「サウンドディレクター」とか言われていたりする。
FGO運営だと、最近ヤツれた感のある「バスター石倉」氏は、「マーケティングディレクター」を名乗っており、カノウヨシキ氏も正確な肩書は「開発ディレクター」である。
とはいえ、「ディレクター」は扱っている業務がプロジェクト、つまりは「部署」の根幹を担っているため、必然的に責任や影響力が他の「課長」に比べて多くなってしまう現実がある。
そのため「ディレクター(ゲーム開発課の課長)」は、特別な課長職として権限が強い現場も多く、畢竟「ゲーム開発全体の総責任者」のような扱いになることも多い。
・ディレクターの悲哀
ここからが運営型タイトルのサービス運営をしている会社の可哀そうなところだが、「ディレクター」はゲーム部分の総責任者であるだけに、ゲームのあらゆる不満点をぶつけられる立場に陥りやすい。
前記事でも述べたが、例えばガチャというマネタイズは「プロデュース」の一環であるにも関わらず、「ディレクター」が批判されることが多い。
他にも「新規ユーザー応援キャンペーン」とか「復帰者応援キャンペーン」とかいった「作品を盛り上げる」系の施策も、大抵は「プロデューサー」のお仕事なので、FGOでいえば「既存プレイヤーには何も無しとかナメてんの?」とカノウヨシキ氏にいうのは的外れということになる。
スーパーのポイントカードキャンペーンの不満を、そこに野菜を卸している農家の人に言ってるようなもんである。
だが、これは勿論ゲーム開発現場を理解していないユーザーが悪い、という話では無い。この認識は「ゲーム開発会社の中の人」すら勘違いしている場合すらあり、発現場のニッチな現状など、ユーザーに理解を求める方がおこがましいというものだ。
こういう事態が起きるのは、大抵は「プロデューサー」が仕事をしていない現場である。実際、FGOにはディレクターより前に出て、開発計画を説明したりする人が誰もいない。
クレジットを見ると「FGOプロジェクト エグゼクティブプロデューサー」の所に、かの塩川御大の名前があるが、素直に見れば彼はアーケードなどを含めたFGOプロジェクト全体のプロデューサーであり、逆説的に言えば「FGO」の現場プロデューサーではない。
また「プロデューサー」の項目には3名の名前があるが、その内訳はアニプレ、TYPE-MOON、DWの現社長と元社長である。
(「竹内友崇」というのは「武内崇」氏の本名)
塩川御大にしろ各社の社長にしろ、彼らはもっと大きな規模の組織を統括するエグゼクティブであって、プロジェクト単体の制作指揮を執っているわけではないと思われる。
つまり、FGO運営はそもそも「プロデューサー」がいない、というか機能していない体制であると思われる。
某MMORPG運営のように前に出過ぎてウザがられたり、某ソシャゲ運営のように余計なことしか言わなかったり、タイトルを貶める動きしかしないPがいるよりはマシかもしれないが、実はコレ組織運営上は結構な欠陥である。その弊害については長くなるので、また別の記事にでもしようと思う。
・プロデューサーの闇
この先は超個人的偏見を基にした内容である。
それを念頭に置いてご一読願いたい。繰り返すが信じてはいけない。
さて、皆様、コンシューマ・ソシャゲー・PCゲー何でも良いが、世に出たゲームをプレイして、「なんで名作の〇〇〇を作ったプロデューサーの居る制作/運営なのに、こんなクソゲーなんだ!?」
と思ったタイトルは無いだろうか?
勿論、プロデューサーとて人の子。
毎試合毎ホームランとはいかないこともあるだろうし、様々な理由で思うように制作が進まず、不本意な形で世に出てしまったタイトルもあるだろう。
これが一般的な解釈であろう。
だが雑務屋の個人的偏見では、ぶっちゃけこの業界で「プロデューサーの実績」ほど信用ならないものは無いと思っている。
本物の「プロデューサー」と呼べる人は業界でも一握りだ。
というのも、ゲーム業界(に限った話では無いかもしれないが)には、「名ばかりプロジューサー」が実に多いのである。
そして特にソシャゲー業界はその傾向が強い気がする。
そこでココでは雑務屋が働いていた現場に実際にいた、もしくは社内にいた「ゴミP」の例を書き出していこうと思う。
・タイプ1:渡り鳥
大元の流れはどこかもはや不明だが、何故かゲーム業界には「社内の役職だけは高い無能」に「プロデューサー」という肩書を付けて塩漬けにする風習がある。
これはプロデューサーの仕事が予算や人事など社内業務が多く、ユーザーの目には触れにくいことを利用したものだ。
こいつらは「現場が作った」人事稟議や予算稟議にハンコを押す仕事しかしていないため、当然ゲーム開発のノウハウや知識などは欠片も持ち合わせていない。
しかし「現場のトップ」という立場ではあるため、現場が頑張って作ったゲームがヒットした場合「自分の手柄」という看板を手に入れることができる。そして、その看板を人事の目くらましに使って、次の大型タイトルに向かうのである。
とはいえ、所詮はただのメッキ。
現場に入れば速攻で剥がれる運命であるが、正式にアサインされている以上はそうそうクビにできないし、またこのタイプは自分の対外評価だけには異常に聡い。
「この人……実は無能なんじゃないか?」という現場の空気を察すると、
早々にその現場からの撤収準備を済ませ、次の大型タイトルに飛び立つ。
コイツが去った後ところで現場は何の支障もないし、むしろ開発環境が改善するため、元が大型タイトル用に優秀なスタッフや潤沢な予算が揃っていので、良ければ大ヒット、悪くともそこそこ程度の評価を世間に残す。
そして、次の現場でのうのうと渡り鳥は語るのである。
「あの大ヒットタイトル〇〇と、最近出た●●のプロデューサーでした」
かくして、本人には何の実力も功績も無いが、関わったタイトルだけはヒット作ばかり、という特大のハリボテが出来上がる。
ソシャゲーの開発現場には、コンシューマの世界では悪名が知れ渡って居場所が無くなったため、新天地を目指してこの手のクソ鳥が大挙して来襲した時期がある。
看板が立派なだけに、それにコロッと騙される新興のソシャゲ開発会社というのは、実に数多く存在した。また今回書いたのはプロデューサーの例だが、同じようなことをしているディレクターも存在している。
そういえばDWさん、↓の記事によると、2018年時点では「第6制作部」まで作れるほどプロデューサーだのディレクターを抱えていたようですが?
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20181109032/
・タイプ2:アレ俺詐欺師
ゲーム開発現場には、時々クレジットに出せない人材がいる場合がある。
例えば「ティアリングサーガ」という「ファイアーエムブレム」そっくりのゲームを作ってしまい、ガチで訴えられた加賀昭三氏が、実は続編の「ベルウィック・サーガ」にも関わっていた、とかいう具合だ。
その後、何故時期が被るかは伺い知れないが、某大手ゲーム開発会社の当時の怖い人たちが暴対法の厳正化と共に社内権力を失ってからは話を表に出せるようになったようだが、そんな加賀氏ほど極端な例でなくとも、クレジットできない開発メンバーは割といる。
事情は様々であるが、セクハラで訴えられて社内粛正された人とか、
どう考えても開発時期が前の会社に所属している時期と被っている人とか、
とあるブラック体育会系の先輩・後輩関係にがんじがらめにされており、
先輩格が蛇蝎の如く嫌う競合企業にこっそり再就職したために、名前を出さないでくれと訴え出た人とか、
婚約者が極度のアンチオタク女子で、ゲーム開発会社で働いていることを隠したまま結婚しようとしてる人とか、
実はかつての元カキタレの所に転職していて、再構築した奥さんにバレると接触禁止命令違反で慰謝料のおかわりが発生する人とか、まあ雑務屋が知る限りではそんな理由である。
そういった色々な「大人の事情」を匂わせ、あたかも「有名タイトルのプロデューサーだった」ように経歴詐称を行ない、ゲーム開発現場に潜り込んでくる輩が一定数以上いるのである。
特にFGOのような、現場の人間が見れば明確に「プロデューサー不在」が見て取れるタイトルは恰好の餌食で、雑務屋も人事面談で「FGOのプロデューサーだった」と名乗り、アレは俺が作った詐欺、通称「アレ俺詐欺」を働いた人物に3人ほどまみえたことがある。
中には自作したらしきディライトワークスの名刺まで持っていたヤツもおり、こいつらはベシャリで生きてきた連中なので、詳しい事情を聞こうとしても「守秘義務契約があるので……」といってかわしたりする。
また開発期間が長かったタイトルの「一時期はこの開発のプロデューサーでした」を名乗る輩は一定数おり、色々な他会社の人と話していると、1年に1回はどこかしらに「キングダムハーツ」か「FF15」か「FF7R」の元プロデューサーが出てくるのだが、詐欺師連中の間では流行っているのだろうか?
・終わりに
さて、今回はTwitterでいただいた質問を基に記事を一つ書いてみた。
今後も何か疑問があれば、質問を投げていただければ可能な範囲で回答するのでお手軽に問い合わせていただいて構わない。
こちらは現役開発者だけに、ユーザーの皆さんが不思議に思っていることや疑問に思っていることを聞かせていただけければ、それだけで非常に勉強になるし、有益な情報になるのだ。
さて次回のネタであるが、これはまだ決まっていない。
せっかくならば先週リリースされた、FGO第2部6章の考察記事とかやってみようかと思っているが、はてさてどうなることやら。
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