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詩・ショートショート

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想像の世界を主にまとめています
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#日記

カプセル旅行【詩】

カプセルに入って旅に出よう 飲めないなら忍び込めばいい 簡単に開けられることもなく こっそり抜け出すにも最適だ 長い長いトンネルに飛び込み 側面の地層をひたすら眺める 急にポンと吐き出されたのは 星たちがつどうパノラマ世界 こんにちは、と挨拶しながら 星たちの間をぬって滑ってく みんなの内から輝く微笑みで お腹がぼうっと温まってきた いつしか目の前に大きな月 「1番いいときに来たね」 文句なしの三日月姿で笑う 「君はこれからどこへ?」 ぼくにもわからないんだ 「それで

積み木 【詩】

いつも答えを探している 穴に合う積み木を探して そっとはめこんでみる ここは四角 ここは三角 ここは丸……と思いきや楕円で 直前で必死に引き伸ばしてみる いつも答えを探している 心の部屋に帰ってきて やれやれと一息つく ここにも四角 あっちに三角 だけど手元にあるのはIだけ どちらの”わたし”が正しいの いつも答えを探している はまらない積み木を抱えて

コード 【詩】

イヤホンコードが絡まっている 絡ませた覚えなんてないのに ごちゃついた塊が ポケットから吐き出された はじまりはどこですか 3本の先端をつまんでみるも 干からびたパスタのよう おわりはどこですか くぐらせ、引っ張る間にも どんどん冷えて固まっていく もう熱麦でも取っちゃえば 見知らぬ声が囁いてくる 一瞬、残骸から手を離そうとして それでもしぶとくこねくり回している

クリスマスの夜に【ショートショート】

クリスマスイヴの夜。21時。 足早にベッドへ滑り込む。本当はまだまだ夜ふかしするはずだったけど、もうどうでもいい。外界と遮断するかのように掛け布団を頭まですっぽりと被り、電気を消した。 何回か寝返りを打ちつつ、やっとうとうとしてきたところで、小さな物音が聞こえてきた。足音のようなものがゆっくりと、だが徐々に大きくなり、すぐ近くでピタリと止まった。直後、ゴトンという音がして、「バカッ」というささやき声。 この時点ですっかり目は覚めていたけど、目を開けるのは怖い。もしも泥棒

Vache et Oeuf 【ショートショート】

秋晴れが爽やかな日曜日の午後、私は珍しく街に繰り出していた。 週末はいつも家でネットかゲームか、といった生活を送っている私にはこの時点で快挙なのに、街に出るきっかけが美術館なんだから自分でも信じられない。まあ、友人から「今週末までなのに、行けなくなったから!」と譲り受けただけなのだが。 通勤路とは別方向なので、どこもかしこも私の目には新鮮に映る。懐かしいと思える店もあったが、知らない店のほうが多いかもしれない……今後はもう少し外に出ないとな。 ***** とそこに、サ

ぬるい空気 【詩】

赤い前掛けのお地蔵さん ひしゃげた赤い三角コーン 適当にころがる炭酸ビン 車の音は遠くに消え ぬるい空気が流れていかない 刈り込まれた芝生の隣には 苔に覆われかけた石だたみ 煤けた茶色のあずまやは 真新しい紐でくくられ ごろんと横たわる鉄骨は オブジェか、それとも 赤い前掛けのお地蔵さん ひしゃげた赤い三角コーン 適当にころがる炭酸ビン ぬるい空気をかたわらに 草露で靴をぬらして、歩く

ある日の川の風景【詩】

なだらかな斜面を水が走っていく ザアザア ゾウゾウ 軽い段差ではよいしょと飛び降りていく シャラシャラシャラ 上流の方からは低くくぐもった音が ゴォォォォォォォ 右も左も関係なく、全体に響き渡る サーーーーーーーーー ・・ 黄色い花を柱にした蜘蛛の巣が 光に反射してキラキラ光っている 穏やかに揺れる葉たち その上空をピュンピュン飛ぶ虫たち 薄いブルーのトンボは シオカラトンボの雄かしら ・・ 日傘の下 一瞬素顔になって 外の空気を吸い込んでみる むせ

見えない夕日【詩】

夕暮れの時 水平線の上は薄黒い雲 厚い層を付け足して 主役を覆い隠していた けれど彼は沈んでいない オレンジの光を放ち 雲の際を赤く染め 水の空に黄色を足していく 上空にぼんやりと浮かぶ 儚げな細長い灰色雲 いつしかフェニックスに姿を変え 煤を残して飛び立つとは 風にけしかけられた 若き荒波たち 不死鳥の下で艶々と輝き ゴツゴツとした影を育てていく まだ、彼は沈んでいない

再びハレの日【詩】

テーブルに並んだお赤飯 甘納豆の桃色ご飯 小豆の薄付きご飯 縁起を担ぐなら”ささげ”らしいよ お吸い物を手にして微笑む君 甘納豆が苦手な私と みつ豆の豆不要論者の君 お赤飯パーティーなんぞ 金輪際無いだろうな ちゃぶ台をぼやけるに任せた私 光りを受けて艶めく姿に 大昔の記憶を重ね 不意に襲来する笑みの群れ 好きなら買ってきても良いのに いや、好きとかじゃないんだ だけど必要なものってあるでしょう?

クレープのために【ショートストーリー】

「ジャムは絶対いちごなのに、クレープはいつもバナナだよね」 サヤは移動販売のクレープ屋さんからクレープを受け取り、すぐ隣にいたミユに話しかけた。一口目を頬張ろうと大きな口を開けた瞬間だったミユは、その勢いのままサヤの方を向いた。 「甘味に酸っぱさはいらないのよ!」 「ごめん、タイミングが悪かった」 そのやりとりを聞いていたレイカは、自分のクレープに視線を向けたままぼそりと呟いた。 「あー、『文字通りタイプ』ね」 「何そのタイプ笑」 サヤはレイカの不意打ちに吹き出

もしもゲーム【ショートストーリー】

平日の昼下がり、ミユとサヤとレイカの三人は、いつものように大学構内の食堂でテーブルを囲んでいた。金曜日は三人とも次の講義まで時間があるため、ここで駄弁るのが習慣のようになっている。 「ねえねえ、“もしもゲーム”しない?」 ひとしきり一週間の近況報告を終えた頃、ミユが思いついたように提案した。 「いつもながら突然だね? 全然いいけど」 栗色の髪の毛を揺らし、まん丸の瞳を更にキラキラさせて返答を持つミユに、サヤは苦笑混じりで答えた。もはやここまでがいつもの流れのようなもの

受信【詩】

ハロー 円に囲われている私です 今日もすこぶる元気 周りの壁いっぱいに 「私」を表現します ハロー 円に囲われている私です 朗報、壁が薄くなってきています Yeah! しかし、どういうわけか 私も透けてきている気がします ハロー 円に囲われていた私です 最近、壁の一部が欠けました Great!! これでやっと出られます 自由 of 自由!! でも なぜか出られません なおかつ 自分を肉眼で捉えにくいです もしかして 疲れているのでしょうか……?

セピア色に紛れて【詩】

正方形の赤い薔薇 内側から順繰り開いた花びらが ずっと口を開けている 正方形の赤い薔薇 最大限に可憐に見せようとして 最後の真っ白い膜が顔を覗かせる 正方形の赤い薔薇 深い緑の茎に神輿を担がれ 大人と対等な目線で立っている 笑顔の家族よりも、大きな太陽よりも いつまでも色鮮やかな 正方形の薔薇がこっちを見ている

他人事【詩】

空間を隔てる薄い膜 透明だけど頑丈な膜 森のようでもあり 海のようでもある ”こちら側”は怖いほど静か 自分しかいない小さなスペース 足首が鳴る音が響くのみ ”向こう側”は万物が縦横無尽 大股で歩むもの、足早に過ぎるもの 浮足立つのはみな同じ 地続きなのに別世界のよう 圏外なのにテレビのよう その幸福な嵐は群れを成し いつしか膜を破るだろう