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なにかの拍子に 一粒の清涼剤が キャラメルの香りが 雨の前の雲が ドロドロしたマグマが ラッパと共に あるいは音もなく じわりじわりと あるいは急激に その部屋に現れたとき それを野放しにせず 刺激しないよう慎重に 赤子にするかのように 愛をもって包み込み 気づかれないうちに 中心にある「芯」を見つけ あるべき姿に仕立て直し その部屋から出してやって…… そしてそれを そっとあなたの前に差し出す
その海は透き通ることを知らず モスグリーンを溶かしていた それが突然深海に染まり 上まで真っ黒になったとき 太陽の光が水面を走り 一瞬にして鏡となった 鋼色の波が微笑む先には 一雨終えたばかりの薄い青空 目が合った瞬間 それらは飛び地の同胞となり── 互いを写し合うのだろう 春の穏やかさを抱いて
なにもないんだ なーんにも あると誇っていたのは ホットミルクの薄い膜 それもいつしか ぺたりと張り付いて取れない 干からびきった小さな壺に キラリと光るうるおいを 一滴ずつでも いつまでかかっても 仕上げに壊れたガラスを入れて とろ火でゆっくりかき混ぜれば なにかができるかな なにかになれるかな
赤い前掛けのお地蔵さん ひしゃげた赤い三角コーン 適当にころがる炭酸ビン 車の音は遠くに消え ぬるい空気が流れていかない 刈り込まれた芝生の隣には 苔に覆われかけた石だたみ 煤けた茶色のあずまやは 真新しい紐でくくられ ごろんと横たわる鉄骨は オブジェか、それとも 赤い前掛けのお地蔵さん ひしゃげた赤い三角コーン 適当にころがる炭酸ビン ぬるい空気をかたわらに 草露で靴をぬらして、歩く