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Coinhive問題の論点

マイニングスクリプト、coinhiveを設置した人が摘発される事件が発生していますが、一部でからはその摘発に疑問視する声が出ています。この事件の問題点について整理してみました。(自分は法律の専門家ではないので、あくまでも個人的な見解です)

ユーザーに無断でマイニングスクリプトを動かす

摘発された人はいずれもユーザーに無断でマイニングスクリプトを動かしていた点です。当サイトの場合は、ユーザーに確認を行っていたのでどうやらセーフだったみたいです。つまり、ユーザーの預かり知らぬところでCPUリソースを拝借してマイニングを行っていた点が摘発のポイントのようです。

この点が刑法第百六十八条の「意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」「人の電子計算機における実行の用に供した者」にあたるのでしょう。

この事件の問題点を切り分ける

この事件の問題点はいくつかのレイヤーに分かれると思います。この点をごっちゃにしてしまうと問題の本質からズレていってしまいます。大きく分けて

1. ユーザーに無断でCPUリソースを使ってマイニングの是非
2. 無断マイニングは違法か?

の2つに分かれます。2をさらに細かく分けると

2-1. CPUリソースを食うのが違法なのか
2-2. マイニングが違法なのか
2-3. 同意を得ずに実行すると違法なのか

という違法性の論拠に分かれてきます。それぞれを見ていきたいと思います。

1.ユーザーに無断でCPUリソースを使ってマイニングの是非

この点については決して褒められる行為ではないでしょう。勝手にCPUリソースを使われるのは誰もいい気がしませんし、結果として電気代がかかっています。この点について私は無断マイニングを勧めもしませんし、擁護しません。ただし、良くない行為ではあるものの、罪として問うのには何の罪になるのでしょうか(後述)。

2.無断マイニングは違法か?

良くない行為=違法というわけでもないでしょう。電車の中で座席に寝転がる人がいたら、みんな迷惑ですし、不自由な人が座れなくなるなどの実害も発生します。しかし、その人を摘発するには違法となる根拠が必要です。今回の件で違法となる根拠は何でしょうか。

2-1. CPUリソースを食うのが違法なのか

前記の行為が違法とされるのであれば、それは勝手にCPUリソースを使う点が「意図しない不正な指令(CPUの消費)」にあたるということでしょう。しかし、それを証明するには「ユーザーの意図するCPUの消費」を明確にしなくてはなりません。つまり、どこまでは意図するCPUの消費であり、どこから意図しないCPUの消費なのでしょうか?

サイトを開いたら勝手に背景で動画がループ再生され、膝に乗っけているノートPCが熱くなるのも「意図しないCPU消費」として違法になのでしょうか?

あるいは上記のようなものも違法になるのでしょうか?

2-2. マイニングが違法なのか

もう一つ、1の項目を違法とする要件に「マイニング」それ自体の違法性です。仮にマイニングが違法ならば、他人のCPUリソースを使うとは言え、違法行為をしているのですから違法と問えるでしょう。しかし、マイニングは違法ではないので、これを論拠にするのは無理があります。

2-3. 同意を得ずに実行すると違法なのか

スクリプトの実行が同意を得ずに行っていることが違法だとすると、こんにちのWebサイトでは同意を得ずに動いているスクリプトが多数あります。アナリティクス系のスクリプトがアクセスした瞬間に動き出し、ユーザーの行動を勝手に追跡する処理が動いていますが、それは今の所違法ではないです。同意をスクリプトの実行を違法とするならば、いろんなところに影響があるでしょう。

法的根拠が曖昧

つまるところ、摘発の法的根拠が曖昧なところに問題点があります。マイニングスクリプトの違法性を問うにしても、いわゆるウイルスのようにデータの破壊や暗号化のようなことはしていませんし、マイニングスクリプトが行っているのは高度な計算処理とそれに伴うCPUの使用です。

仮に同意を得ないCPUの大量の消費が問題というのであれば、同じ根拠を基に3Dエフェクトや動画をたくさん使った重たいサイトを摘発することが可能になります。それが果たして健全な姿なのでしょうか。

今回の摘発理由がどうも印象論でしかなく、「詳しくは分からないけど何か悪いことをしてそうだから、とりあえず捕まえておく」ように思えます。Coinhiveの是非やサイトマイニングの慎重な議論なしに、Coinhive = 悪、だから埋め込んでいるやつも悪、という短絡的な理由に感じます。

やましいことをしているんだから当然

ユーザの同意を得ないマイニングは社会的コンセンサスを得ていない以上、それに対する批判はありますし、そうした行為は私も反対です。じゃあ良くないことしているから摘発して良いかと言えば、それは違うと思います。

今回の一件に関しては「やましいことをしているんだから当然」という声もあるでしょう。しかし、この曖昧な根拠を認めた場合、次は政府の意に沿わないサイトを「広告をいっぱい貼り付けて、CPUを消費しているから」という理由で摘発するかもしれません。

つまり眼の前の短期的な正義が必ずしも長期的な正義につながるとは限りません。これは海賊版サイトのブロッキング問題にも言えることでしょう。

明確な根拠を

この記事によれば、警察に問い合わせても詳細な犯罪要件は決まっていないそうです。現状、何をやったら捕まるか分からない状態です。そんな中での摘発に正当性があるのでしょうか。どうも、先に捕まえて違法性を既成事実化し、それをもって摘発理由とするような本末転倒な論理にも見えます。

過剰な規制は技術の発展を阻害し、ひいては国際競争力の低下などを招きます。Coinhiveの件に限らず、制度や法律がインターネットの実情に追いついていないことが多々あります。健全な環境構築や発展のためにも、強権的な規制の前にもっと慎重な議論を進めてほしいものです。


Photo by Markus Spiske on Unsplash

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