「季節が終わる時」

桜の季節が終わると涙の季節がやってくる

幼い頃に誰かが言った。
幼いなりにその意味を知りたかった私はどうして?と聞き返したんだった。

桜の季節はお別れの季節なんだよ。そして、桜の季節が終わってしばらくしたら雨がたくさん降るの。その雨は離れ離れになった誰かの涙なの。


たった1人の顔も名前も思い出せない誰かの言葉が、15年以上もたった今でも頭の中に残っている。


不思議と。この季節が来る度に思い出す。



3日前までは満開だったのにあっという間にピンクから緑へと変わってしまった木々をぼうっと眺めノールックでエンターキーを押す。


送信完了の文字を見て1つため息をつくと遠くからまだどこか慣れないあだ名で自分を呼ぶ声がした。



空になった安い缶コーヒーの空でゴミ箱にシュートを決めてパソコンを小脇に駆け足でその背中を追った。



吹き抜けた風にはまだ春の香りが残っていた。






アラームの音で目を覚ました。時計を見ると2時半をさしていた。携帯のバグかと思ったが、どうやらおっちょこちょいSiriさんの認識ミスか私の滑舌か9時半が2時半になってしまったようだった。


こうなってしまうと眠れない。
ベッドサイドの天然水を1口飲んで、パソコンを開く。
インスタグラムを適当にスクロールしていいねするだけのもはや作業のような時間。

流し見でスクロールする中でふと1人の友達の投稿が目に留まった。


付き合い始めました、有名人かのような報告文とともに載せられていたのはカフェでのツーショット。


そのカフェは皮肉にも私の恋が玉砕したカフェと同じ店だった。


桜の下で聞いた苦し紛れの最近どう?は


ぼちぼちかなという素朴な返事と嫌になるくらいの満面の笑みに消えた。



桜の季節が終わったら涙の季節がやってくる。



翌日キャンパスの桜の絨毯は、
既に風に流され姿を消していた。



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