「ぷれいばっく」
早朝。身震いする肌寒さに目を開けて布団を手繰り寄せて包まる。頬に付いた畳の跡を指でなぞって携帯の時刻表示を見る。
4時半。
跡を鏡で確認しようと姿見を覗き込むと間抜け面が映った。
心做しか目が腫れている。
泣いていた……?
あまりにも身に覚えがないので、きっと何か夢に魘されていたんだろう。
寒さに耐えかねてカーディガンを椅子からひったくり羽織るとまたもぞもぞと布団に戻った。
先程まで見ていた夢がもう思い出せない。
ただやけに胸を締め付けるような悲しさと幼い誰かの泣き声が霧のように胸に残っていた。
差し込みはじめた朧気な青い朝日を目の奥に押し込むように再び眠りについた。
次に目覚めたのは朝ではなく昼だった。
12時の陽気な街メロに若干気だるさを感じながら体を起こす。
前髪が鉄腕アトムになっていたので仕方なく一旦シャワーを浴びる。
妹が部活に行ってしまったためもぬけの殻になったベッドをソファ替わりに腰掛けて、ぼうっと部屋を眺める。
この家が「実家」と呼ぶ場所になってもう3年目になろうとしている。
私が小学生の頃からこの部屋にある塗装が剥げた本棚を眺めていると1冊のDVDアルバムに目が止まった。
中学校文化祭記念とかかれたDVD。
ちょっと魔が差した。
魔が差しただけだった。
プレイヤーに入れてしまったんだ。
何年も見ることのなかったその「過去」を
読み込み中の文字を眺めながら少し早くなる心拍数を感じていた。
その中には合唱と演劇が入っていた。
私は笑っているようだった。
「笑っているような」顔をしていた。
瞬間瞬間としてはきっと楽しい時間もあっただろう。
けれど。今朝姿見に映った自分の目元と画面の私の目元がどこかぼんやりと似ていたんだ。
テレビのボタンを消すともう一度姿見の前に立ってみた。
私は笑っていた。
ありのままで笑っていた。
「頑張れ、あと5年だよ。」
日はゆっくりと暮れ始めていた。
ようやく思い出した今朝夢の中で泣いていた、セーラー服の少女に私はそう一言残して、
今の居場所への帰り支度をはじめた。
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