「カラタチの白昼夢」
カラタチの花が咲いたよ。白い白い花が咲いたよ。
川沿いの道を自転車で漕ぎながら無意識に口ずさんだのは曲名もどこで聞いたのかも思い出せない歌だった。
まだ見なれぬこの街を0時も過ぎた夜中に1人自転車を走らせる。曲がる場所を間違えて1度戻ったりなんかして、ようやく家に辿り着いた時には時刻は1時を回っていた。
帰るなりベッドに埋もれベッドサイドを眺めると、まだ真新しい写真立てが視界に入る。
数少ない私と君とのツーショット。
部屋に写真を飾るなんてまずなかったから、わざわざ写真立てを買いに行って、何が可愛いだとか何がオシャレだとかもわからず、オススメ!!というPOPの付いた商品をそのまま買って飾った。
この写真の中の君は1枚のガラスを隔て紛れもなく私に微笑みかけているけれど、本当の君は、今もきっと私ではない『誰か』と笑いあっている。
季節は移ろう。
きっとこの街もあと2週間もしたら馴染んで、近道なんかも見つけたりして、まだ質素なこの部屋も次第にものが増えて、忙しい生活が幕開ければ写真を眺める余裕さえなくなっていくのだろう。
季節は移ろう。
けれど
私の想いは。
カラタチの花が咲いたよ─────
咲けなかった私の花。
一瞬だけの相思相愛、あの日見た白昼夢がまだ今も胸の中でまどろんでいる。
カラタチの傍で泣いたよ───
濡れた枕は朝になれば乾くけれど
涙が枯れることはない。この恋が終わるまで。
ハッピーエンドは迎えられないとわかっているから
バッドエンドを迎えるくらいなら辛い恋でも終わらせたくはない。
季節は移ろう
貴方を好きな私のままで。
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