「季節の狭間に」



三度目の夏が来る
脱ぎ捨てたシャツは汗で薄く湿っていた。
暦の上ではまだ春だと言うのに、携帯の画面に表示された市内の気温は夏顔負けのものだった。

理となった非常。1年前の夏、そう私は綴った。

「借りていい?」と返すことはまず無いのに尋ねて箱から白い布を取り出して玄関に向かう。
少し遅れて奥から現れた家主の少し慌てた素振りがやけに愛おしくてその髪に触れた。

布1枚を隔てて緩みきった自分の口元がバレないのはこの非常のおかげか否か。

不思議そうに私を見下ろすその笑顔が他の誰かに見られないように白い布を差し出して先に外へ出た。

戻らぬ日常の中の些細な幸せが妙に美しい。

振り返ったドアの先、春が連れてきた君が駆け足で私に並んだ。

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