【code=201122_扉のむこう】


いつも夜になると
戻ってくる白い大きなモノ
あなたはいつもその中から
ゆっくりとおりてくる

手にしたなにかをおうちの扉のむこうに置き
出てくると笑顔で私に話しかける
“ちゃんとご飯食べたかい?”

少し冷える倉庫のなかで二人
私がご飯をもらって食べていて
あなたはそんな私の傍らで
にっこり微笑んで座っている

あなたの手は 土の香り
時々 苦い煙の香り
ちょっとしょっぱいあなたのその手が
いつもいとおしくなるの…


頭をなでて 首筋から背中へ
硬い手の柔らかな温もり
少しの時間ではあるけれど
今はただ 甘えさせて

あなたが立ち上がるたびに
私は少し 切なくなるの
もう行ってしまうのね…と
そればかり頭をよぎるから


行かないで・と呼び止めても
あなたはいつもの笑顔のまま
今夜もまた あの扉の向こうへ…
夜の闇 今日も私は独り寝なのね…


今日も目が覚めて 独り
紅い空に 冷たい空気
いつものベンチの上に出て
扉のむこうのあなたを探す

この時のあなたはいつも
なかなか扉から出てこない
空の紅さが抜けるころ
ふらふらとした姿が見える

やっと朝 あなたにあえても
少しばかり頭をなでては
今日も白い大きなモノに乗って
あなたは行ってしまう…

いつもきれいなわたしでいたいから
空が暗くなるまでの間は
一生懸命に毛繕いをして
あなたが帰るのを待っているね…


どんなにあなたが優しくしてくれても
その扉のむこうに わたしは入れない
ずっとあなたの傍らにいたいのに
その願いは いつまでも叶わぬまま

その表情も 仕草も その手も
ずっと独り占めしていたいのよ
そんなわたしを見透かすように
あなたはいつも かわらない笑顔で

他の誰にも渡したくないのよ
わたしだけのあなたでいて
その扉のむこうへ わたしが行けなくても…


わたしとあなたでは
生きる世界が違うもの
そんなこと 分かっているの
でも…その世界の扉を
わたしは抜けて行きたいの

頭をなでて 首筋から背中へ
硬い手の柔らかな温もり
少しの時間ではあるけれど
今はただ 甘えさせて

例え夢や幻でも いいの
わたしはあなたの側で生きたいから
少しの時間でも いいの
あなたの傍らで眠らせてほしい

『今宵は月が綺麗ですね』
あなたのその言葉を信じて
わたしは今日も
あなたを扉のむこうへと見送るの…


…また明日ね…

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