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刑事たちも踊らされた。警察を手駒にする離婚業者の手口!

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 車六台、二十人という陣容で、刑事たちは団地を取り囲んでいた。有無をいわさず子供たちを車に乗せた。

 子供たちだけを警察の車に乗せるわけにはいかない。私も刑事たちの車に乗り、昨日走った関越自動車道を、今日は新潟に向かって北上することになった。

 娘は何も事情を説明されていないのに、状況を見て「またお父さんに会えなくなる」と泣いている。まだ赤ん坊の息子も泣きやまない。

 おびえる子供たちを安心させようと、私もワンボックスに乗り込もうとした。しかし刑事に制止された。「お父さんはこちらに乗ってください」と、屈強な男性刑事が運転するセダンに乗せられた。私の母は子供たちとの同乗を許された。

 祈るような気持ちで、「またすぐに会えるからね、大丈夫だから」と子供たちを抱きしめ、それぞれの車に乗った。

 私が乗るセダンを運転していたのはM刑事。丸刈りにスーツ。いかにも刑事という感じの男だ。

 M刑事は若くして、捜査一課の刑事に就任した。ノンキャリアの警察官にとって一課への配属は最高の栄誉だ。

 彼はかつて機動隊に所属していたそうだ。ある日、出動命令があったとき折り悪く、息子が高熱を出してうなされていた。心配を振り払って任務についたが、まるで身は入らなかった。任務中に二度も大きなミスをしたそうだ。そんな話を彼は私にした。

「そのとき、俺の刑事としての牙は折れちまったんだよ……」

 たとえこれが私の同情を誘うという狙いがあった話であったとしても、子供を思う父親の苦悩は共有できた。

 新潟への道のりは長い。しだいに私は、人情派のM刑事の人柄にほだされるようになり、また彼も私の境遇に対して心底同情的になっているようだった。心情的には打ち解けたM刑事であるが、警察の一員として問うておきたいことがあった。

「あなたたちは何を守りたいんですか。子供が危険な目に遭ったり、最悪の場合、生命を失ったら、あなたたちはどう責任をとるんですか」

すると、M刑事は顔をゆがめ、呻くように言った。

「それは、言わねえでくれよ。俺たちは一度、被害届を受理したら、それをゼロに――つまり被害が出る前の状態に、元に戻すまで止まれないんだよ。

 本当なら、俺たちも実のお父さんが連れ去ったと聞けば、被害届は受け取らないんだよ。でも奥さんは半狂乱で『とにかく子供が危ない。早く探せ』と言うんだ。誰が連れ去ったのか聞いても言わないで。

 俺たちが動きだしたら、すこしずつ本当のことを話しはじめたんだ。『実は父親が連れて行った。実は親権は父親にある。戸籍も父親の方にある』ってね。でも俺たちは被害届を受理しちまったら、もう止まれないのさ」

 元妻は女権団体で訓練を受けた「離婚のプロ」だ。警察が動く条件、動かない条件も熟知している。民事不介入が警察の原則。だから、いったん刑事事件として動かしてから、あとで実は民事であったことを小出しにしてくる。じつに巧妙な手口だ。

 おりしも新潟県警はその頃、不祥事を抱えていた。これ以上、厄介ごとを増やすわけにはいかないとの思いもあっただろう。また元妻が所属する女権団体は、新潟で幅をきかせている。その名を聞いて、警察は緊張感を高めたのかもしれない。

 終わってみれば、すべて元妻の手のひらの上で踊っていただけだった。私だけではない。警察すらも踊らされたのだ。

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